研究課題/領域番号 |
17K19698
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研究機関 | 大阪大学 |
研究代表者 |
石井 秀始 大阪大学, 医学系研究科, 特任教授(常勤) (10280736)
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研究分担者 |
今野 雅允 大阪大学, 医学系研究科, 寄附講座講師 (80618207)
小関 準 大阪大学, 医学系研究科, 特任助教(常勤) (20616669)
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研究期間 (年度) |
2017-06-30 – 2019-03-31
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キーワード | 癌 / ゲノム / 細胞・組織 / トンネル現象 / 核酸 |
研究実績の概要 |
マイクロRNAは、機能性核酸の1つとして標的遺伝子に結合してその蛋白翻訳に関わることにより、ゲノム全体の機能を大きく左右する分子である。2001年に癌特異的なマイクロRNAが発見されて以来、マイクロRNAの「量」的な発現と疾患予後との関連性が明らかにされてきた。しかし、マイクロRNA(2,658種類)は遺伝子数(22,500)に対して9分の1を占めるのみであるので、マイクロRNAの「質」的な精緻な変化が細胞の機能に大きく影響を与えることが示唆される。私達の予備的研究の成果で、難治癌ではマイクロRNAの特定の塩基位置にメチル化修飾が付加されており、遺伝子の発現と機能の制御に大きな変化を来していることが示された。このようなマイクロRNAのモドミクスを厳密にプロファイリングすることにより、疾患のサブクラス分類や高精度の予後判定、さらには組織恒常性の維持と破綻、そして癌幹細胞の研究に応用し、ハブとなる分子の同定を通じて画期的な創薬への道を拓くことが出来る。 本計画では以下の点に焦点を絞り研究を進めた。(1)マイクロRNAモドミクス解読:マイクロRNAの一塩基レベルでの化学修飾を解読するための確立された技術は未だない。全マイクロRNA(2,671種類)のモドミクスを厳密にプロファイリングするために、相互補完的な2つの技術を応用した。 ①質量分析(MS)法による分子内修飾の高精度計測 ②トンネル電流シークエンス(TS)法による短配列のデータ蓄積 (2)組織恒常性の理解と臨床応用:上記の計測技術で単細胞レベルのマイクロRNAのモドミクス解析を進めることにより、新しい視点で組織恒常性の機構を理解し把握することができる。本計画では、マイクロRNAのメチル化酵素の遺伝子改変マウスを用いて膵臓の発生と癌化を研究し、ヒト疾患における体性幹細胞からの癌化におけるRNAモドミクスの役割を理解することを進めた。また手術等で得られた臨床材料を用いて組織学的に確認した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
(1)質量分析(MS)法 マイクロRNAのメチル化は、11種類が知られているが、N6メチル・アデニン(N6A)とN1メチル・アデニン(N1A),およびm5メチル・シトシン(m5C)とm3メチル・シトシン(m3C)が主たる修飾であり(92%)、質量分析法で区別可能である。私達はN6AとN1A、m5Cとm3CをBromoacetaldehyde付加により峻別可能な基盤技術を開発した。本研究では、着実に段階を踏んで進める、まず癌で重要なマイクロRNA(癌抑制遺伝子を標的とするOnco-MIR, 癌遺伝子を標的とするSuppressor-MIR)から20個をルーチンで測定できる第一段階を構築する。第二段階として後述のトンネルシークエンス法と融合させて50個まで測定化可能とする。さらに技術の集約化を進め、第三段階として500個の解析が可能なチップの開発を進めた。 (2)トンネル電流シークエンス(TS)法 トンネル電流シークエンス法により取得した短い塩基の一本鎖の連続した配列情報を用いて、これまでの私達との恊働した研究に引き続き、一分子のレベルでマイクロRNAのメチル化の位置を同定し、計算機を用いた機械学習により、高速に大容量データを処理する技術を完成させた。次年度も引き続き研究を進め、生体の恒常性の維持とその機能の破綻メカニズムを明らかにし、疾患バイオマーカーとして基盤技術を構築した。
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今後の研究の推進方策 |
平成30年度も引き続き、組織恒常性に関わるメカニズムの解析を進める。すなわち遺伝子改変マウスを用いてマイクロRNAのメチル化に関わる酵素をノックアウト(欠損)し、どのマイクロRNAのどの塩基部位に、疾患特異的なメチル化修飾が発生するのかを明らかにする。そのために、膵臓に特異的に遺伝子発現を誘導できるマウス(PDX1-Cre-ER)と、メチル化酵素をノックアウトできるようにCRISPER/Cas9法でゲノム編集した欠損マウス(METTL3,METTL4,WTAP,TRMT6)、および癌化を誘導できる発癌マウス(K-Ras変異)の3者を掛け合わせて、任意の条件で遺伝子を組み換えれるマウスを作製、使用する。マイクロRNAのメチル化をプロファイリングすることにより組織の恒常性が破綻する過程で、マイクロRNAのメチル化酵素が関わり、機能が変化して癌化が進展することを明らかにすることができる。さらに、ヒト臨床材料を用いた検討をすすめ、創薬へ新たなシーズを提示する。このようにRNAモドミクスは従来は知られていなかった病態を明らかにする鍵を握っており、疾患研究のパラダイムシフトを生む可能性が強く期待される。
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