本研究は痛覚受容体の機能制御が破綻し、痛覚伝達が過剰となることが痛覚過敏を惹起し慢性痛の原因となるという仮説を検証する目的で行う。これまで、知覚神経におけるG-protein coupled receptor kinase (GRK2)の発現をウェスタンブロッティングによって解析する実験を実施し、さらに、同じ抗体を用いて免疫組織化学法を実施し、後根神経節におけるGRK2陽性ニューロンを可視化することに成功した。また、種々の疼痛モデルを作成し、モデル動物におけるGRK2の発現を検討した結果、術後痛モデルの回復期にGRK2の発現が増加していること、術後痛モデル作成後回復期にGRK2阻害剤をモデルラットに投与すると、回復した痛覚閾値が再び低下する現象を明らかにした。 2020年度にはGRK2の機能を制御する因子として創周囲で合成されるIGF1の関与を検討した。術後痛モデルにIGF受容体阻害剤を投与したところGRK2の発現増加は防止され、IGF1の足底投与によりGRK2の発現は増加した。術後痛モデルにおいて足底組織のIGFは増加が認められた。このことから、足底組織で合成されたIGF1がGRK2の発現を増加させることが明らかとなった。さらに、術後痛モデルにおいてGRK2により制御される標的分子を同定するため、網羅的リン酸化タンパク解析を行い、複数の標的タンパクがGRK2によりリン酸化を受けることを明らかにした。
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