研究課題/領域番号 |
17K19722
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研究機関 | 京都大学 |
研究代表者 |
中川 貴之 京都大学, 医学研究科, 准教授 (30303845)
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研究期間 (年度) |
2017-06-30 – 2019-03-31
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キーワード | 末梢神経障害 / トランスレーショナルリサーチ / シュワン細胞 / ドラッグリポジショニング / 抗がん剤 / 糖尿病 / スクリーニング / ガレクチン3 |
研究実績の概要 |
末梢神経障害の治療ターゲットとしてシュワン細胞に着目し、抗がん剤によるあるいは糖尿病性の末梢神経障害におけるシュワン細胞の役割と、シュワン細胞を標的とした治療薬探索を実施した。まず、成熟シュワン細胞培養系にパクリタキセルや高グルコースを処置した結果、シュワン細胞の成熟マーカーmyelin basic protein(MBP)の発現低下、未成熟マーカーp75 NTRおよび脱分化マーカーガレクチン-3の発現増加が認められ、シュワン細胞が脱分化しているものと思われた。また、ELISA法によってガレクチン-3が培地中にも遊離されていること、この遊離ガレクチン3がマクロファージの遊走を促進することを確認した。ガレクチン3のバイオマーカーとして可能性を検証するため、抗がん剤誘発/糖尿病性末梢神経障害モデルマウスを作成し血中濃度を測定したところ、いずれも発症初期にガレクチン3濃度の増加が確認できた。また、DRG神経の末梢神経障害時の機能障害を測定するため、DRG移植片による三次元培養系構築を開始した。 また、MBPプロモーター下で蛍光タンパク質Venusを誘導できるウイルスベクターをシュワン細胞に感染させ、シュワン細胞の分化誘導をスクリーニングできる系を作成したが、S/N比が満足に高まらず、最終的にマルチウェルプレートでMBPの発現誘導を免疫染色にて比較する方法に切り換えた。条件検討の結果、化合物スクリーニング系として機能することを確認し、現在、この方法既承認医薬品化合物の中からシュワン細胞分化誘導能を示す医薬品をスクリーニングしている。また、既にPDE阻害薬のシロスタゾールやタダラフィルがシュワン細胞分化誘導能を示すことを、培養シュワン細胞を用いた検討により見出していたが、マウスへの抗がん剤の長期反復投与によって誘発される末梢神経モデルマウスにおいても有効性を示すことを明らかにした。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
ハイスループットスクリーニング(HTS)系の最適化検討においてシュワン細部の調製、HTSを実際に実施していた研究協力者の不測の怪我により一時入院したため、HTSの最適化検討が遅れた。さらに、当初の予想に反して、想定したVenus蛍光強度による指標では、S/N比が満足に高まらず、再検討を余儀なくされた。ただし、再検討の結果、MBPの免疫染色により目的とするS/N比を得ることができ、年度内にスクリーニングを開始できた。他の実験計画については順調に進行中である。
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今後の研究の推進方策 |
シュワン細胞分化誘導能を示す既承認医薬品あるいは新規化合物をスクリーニングするためのHTS系については、やむを得ない事情によりやや進行が遅れたが、一部、研究計画を変更して補っており、目処もついたことから現在のところ最終目標に変更はない。また、既にシュワン細胞分化誘導能を示す薬物として見出していた複数の薬物のうちシロスタゾールやタダラフィルが、期待通りin vivoで末梢神経障害抑制作用を示すことを明らかにしており、予定通り現在そのメカニズムを解析している所である。 一方、本研究実施中に、脱分化シュワン細胞で発現が増加する因子についてガレクチン3を見出し、さらに、培地中やマウスでは血中濃度も上昇することが判明したことから、ガレクチン3の末梢神経障害発症機構における役割だけでなく、末梢神経障害のバイオマーカーとしての可能性を検証している。バイオマーカーとしての検証が済めば、実験動物を用いた検討だけでなく、本研究成果をもとに臨床研究として発展できる可能性もある。
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次年度使用額が生じた理由 |
ハイスループットスクリーニング(HTS)系の最適化検討においてシュワン細部の調製、HTSを実際に実施していた研究協力者の不測の怪我により一時入院したため、HTSの最適化検討が遅れたため、本年度分使用予定であった助成金の執行にも遅れが生じた。また、本年度購入した遺伝子改変マウスの繁殖が芳しくなく、遺伝子改変マウスを用いた研究に着手できなかったため、助成金の執行にも一部遅れが生じた。 これらの問題は既に解決済みであり、次年度には本年度使用予定であった助成金も予定通り執行できる見込みである。
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