研究課題
テロサイトは、腸管におけるカハール介在細胞に類似しているといわれている。カハール介在細胞は以前からその存在は知られていたが、近年その機能が明らかになり、蠕動運動の局所コントロールに寄与しているという画期的発見がなされた。同様の細胞は子宮、心臓、乳腺といった全身の様々な臓器に発見され、長い突起を持つことからテロサイトと名付けられている。テロサイトの定義は「テロポッドを持つ細胞」とされ、上皮直下・血管・神経・分泌腺の傍の間質に見いだされることが多い。本研究では下咽頭・気管・食道におけるLgr5陽性細胞およびその子孫細胞がテロサイトの特徴を備えていることを見出した。Lgr5はWntシグナルの標的遺伝子であり、腸管上皮幹細胞に発現している。Lgr5-EGFP-ires-CreERノックインマウスとRosa-Creレポーターマウスを交配させたトランスジェニックマウスの咽喉頭・気管・食道を調べ、その上皮幹細胞をも標識されるかどうか解析したところ、上皮には標識細胞は見つからなかったが、粘膜固有層には多数の長い突起をもつ標識細胞が見つかった。これらのLgr5陽性細胞系譜の細胞は、神経マーカーTuj1、樹状細胞マーカーMHI classIIの発現が見られず、間葉系細胞Vimentinの発現は見られるものもあり、その特徴的な形態はテロサイトの定義に合致していた。さらにtelocyteの発現を詳細に観察したところ、telocyteは声帯には発現せず、主に下咽頭梨状陥凹と食道を中心に多くの細胞が存在することが明らかとなった。下咽頭・食道は上部消化管であり、通過する飲食物に対する何らかの知覚とそれに対する応答を行なっていると考えられるが、テロサイトがそれを媒介している可能性があり、咽喉頭異常感、嚥下障害、アレルギー等の疾患に関連する知見が得られる可能性が期待される。