線維柱帯細胞の上皮間葉転換(EMT)様変化が緑内障病態の一因であるという新たな仮説の元、病的な線維柱帯細胞(EMT様現象を誘導された線維柱帯細胞)にEMTの逆の現象である間葉系上皮転換(MET)の誘導を行うことで、正常な線維柱帯細胞としての機能回復を試みる、細胞の可塑性に基づく新規治療法開発に向けた取り組みとして本研究を行っている。本年度は昨年度に引き続き主にカニクイザル眼球より単離・培養した線維柱帯細胞およびシュレム管内皮細胞を使用したin vitro評価とブタ摘出眼球を使用したex vivoの組織培養灌流実験を中心に研究を実施した。シュレム管内皮細胞を用いた電気抵抗による細胞透過性の検討により、TGF-β2刺激による有意な電気抵抗値の上昇が認められ、HDAC阻害剤であるボリノスタットの添加によりTGF-β2刺激による効果は有意に抑制された。Ex vivoのシュレム管組織培養灌流実験において、TGF-β2刺激による房水流出抵抗の有意な増加が認められ、ボリノスタットはTGF-β2の同時灌流により流出抵抗の増加を有意に抑制した。この結果はこれまでin vitroの検討で認められた流出抵抗への影響をよく反映した結果である。TGF-β2刺激後の細胞内シグナルについての検討では線維柱帯細胞、シュレム管内皮細胞ともにSmad経路の活性化はボリノスタット添加では抑制されていなかった。それに対し、non-Smad経路のAktおよびErkのリン酸化はボリノスタット添加により有意に抑制された。このように、HDAC阻害剤であるボリノスタットは、TGF-β2刺激による房水流出抵抗を抑制し、そのメカニズムとして、non-Smad経路の活性化抑制の可能性が示された。
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