研究課題/領域番号 |
17K19737
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研究機関 | 公益財団法人東京都医学総合研究所 |
研究代表者 |
入江 敦 公益財団法人東京都医学総合研究所, ゲノム医科学研究分野, 主任研究員 (10280786)
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研究期間 (年度) |
2017-06-30 – 2020-03-31
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キーワード | 破骨細胞 |
研究実績の概要 |
本研究は、破骨細胞分化における膜脂質動態に焦点を当て、分化過程における破骨細胞の融合・多核化の機構を解明してきた。破骨細胞分化過程において、リン脂質の一種であるホスファチジルエタノールアミン(PE)の生合成が増加し、さらにPEが細胞膜二重層内層から外層へ移行することにより、破骨細胞融合が促進されることを見出すとともに、これらPE動態の責任分子を同定した。本年度、この研究成果を論文発表するとともに、学会等において発表した。 この成果に引き続き、さらに解析を進め、脂質動態が他の細胞融合現象にも関わるかどうか検証した。まず、破骨細胞と同様に骨髄細胞から分化・融合する多核マクロファージについて解析した。その結果、融合期に細胞膜外層のPEは増加するものの、その増加の度合いは、破骨細胞融合に比べて弱いことを確認した。また、偽足様突起先端にPEが偏在している破骨細胞とは対照的に、多核マクロファージにおいてはPEの偏在が観察されなかった。破骨細胞のPE輸送トランスポーター・ABCB4とABCG1の遺伝子発現を多核マクロファージにおいて解析したところ、ABCG1の発現量は増加していた一方で、ABCB4の発現上昇は観測されなかった。以上のことから、多核マクロファージ融合に破骨細胞融合と同様のPE動態が起こっているのか否か、現状では結論を見出すには至っておらず、今後更なる解析が必要と考えている。 次に、筋芽細胞の分化・融合におけるPE動態の解析に着手した。その結果、融合前の未分化筋芽細胞は、細胞表面にPEの露出があまり見られないのに対し、融合期においては顕著にPEが露出していた。この結果は、筋芽細胞融合において、破骨細胞融合と同様のPE動態が起こっている可能性を示すものであり、今後、PE動態の責任分子を探索する予定である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
当初の計画では、本年度は破骨細胞におけるPE動態の責任分子である、脂質合成酵素・LPEAT2と脂質トランスポーター・ABCB4、ABCGの遺伝子改変マウスを作成し、これら作業と平行して、培養細胞を用いたin vitroの解析を行う予定であった。しかし、遺伝子改変マウス作成の準備段階に時間を要してしまったために、遺伝子改変マウス作成は次年度以降に先送りし、本年度はin vitroの培養細胞を用いた実験を集中して行う方針に変更した。そのため、当初の研究計画のなかで本年度実施予定でありながら手付かずの部分と、逆に来年度以降に実施を予定していた実験を本年度に前倒しして行った部分が生じた。以上のような理由により、現在までの達成度としては、当初計画とは遂行する順序が異なっているものの、全体としての進捗状況は、概ね当初の計画どおりに進展しているものと判断している。 また、当初は予想していなかったことではあるが、我々の予備的実験により、リン脂質の合成酵素の一種であるsPLA2-XIIAが、破骨細胞形成や関節炎発症に関わる可能性が明らかとなってきた。関節炎は、その病態の進行に破骨細胞が深く関与する炎症であり、我々の予備的知見は、破骨細胞と骨疾患病態における脂質動態関連分子の役割を理解する上で、非常に重要な発見をする可能性を秘めている。そこで、来年度以降さらに解析を進めるとともに、我々が見出している破骨細胞のPE動態とsPLA2-XIIAの関係性を明らかにする必要があると考えている。これらの解析が進めば、申請時の計画とは若干方向性が異なるものの、骨疾患における脂質動態の意義の解明という重要な研究成果を得ることが期待できる。
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今後の研究の推進方策 |
本年度明らかにしてきた多核マクロファージと筋芽細胞融合過程におけるPE動態の責任分子の同定を来年度も進める。これらの解析により、種々の細胞融合過程において共通の脂質動態機構が働いているか否か明らかにする予定である。 次に、破骨細胞融合期において偽足様突起同士が接触することが、破骨細胞融合に必須であることを既に研究代表者は見出している。そこで今後は、破骨細胞融合過程における偽足様突起形成を担う分子の探索を行う方針である。手法としては、既存の突起形成や、細胞膜の曲率を変化させることが知られている分子に重点を置き、遺伝子発現解析を行うことにより突起形成の候補遺伝子を探索する。これら解析によって、PE動態分子だけではなく突起形成の鍵となる分子が明らかとなり、破骨細胞融合機構の理解がさらに進むと考えている。 続いて、sPLA2-XIIAの解析を進める。sPLA2-XIIAは基質特異性や生理活性が全くわかっていないので、手始めとしてsPLA2-XIIAの基質特異性を明らかにしていく。手法としては、マウス組織より抽出した脂質を基質とし、リコンビナントsPLA2-XIIAタンパク質を用いて質量分析プロファイリングにより代謝産物を解析する。さらに、sPLA2-XIIA欠損マウスにおいて、コラーゲン抗体誘導関節炎モデルあるいはコラーゲン誘導関節炎モデルを施行し、足の腫脹や炎症マーカー発現などの関節炎病態をスコアリングし、この病態モデルにおける炎症マーカーの発現を解析し、病態モデルにおける破骨細胞形成における脂質動態の役割を明らかにしていく。
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次年度使用額が生じた理由 |
当初、29年度に予定していた破骨細胞のPE動態遺伝子群の欠損マウスの作成を次年度以降に先送りし、代わりにin vitroの細胞培養を用いた解析を重点的に行った。そのため、当初予定していた実験動物費用をはじめとした関連試薬類の購入が少なかったため、結果として消耗品購入額が計上額を下回った。旅費に関しては、学会発表旅費を科研費以外の研究費から支出したために、当初予定していた国内旅費の支出がなかった。 来年度は、本年度に引き続き、マウスから初代培養細胞を単離し、培養するための関連試薬、培養細胞を用いた細胞生物学的な解析のための試薬を購入する。また、遺伝子発現解析のために、関連試薬の購入を予定している。さらに関節炎病態モデルマウスの解析に、リアルタイムPCRといった分子生物学的な試薬、組織染色や細胞免疫染色用に抗体の購入予定である。以上の消耗品試薬類は比較的高額なものが多いために、本年度繰り越しとなった金額と来年度計上額との合計金額分の消耗品試薬類の支出が見込まれる。さらに論文投稿を予定しており、別刷り代をはじめとした投稿に際する費用の支出が見込まれる。また、学会参加を予定しており、計上額の支出が見込まれる。
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