インプラント周囲炎は未だ決定的な解決策のない課題である.破骨細胞の前駆細胞となるマクロファージ(MΦ)はインプラント周囲骨吸収の発症に深く関与する.また,M1型あるいはM2型のサブタイプに分極し,それぞれが破骨細胞形成に抑制的に働く可能性が示唆されている.MΦの分極化は,リガンド刺激によって引き起こされるだけでなく,足場付着時の細胞内メカノトランスダクション機構を介した細胞形態変化によっても制御される.そのため,申請者は,MΦの分極を制御するナノ表面形態をインプラント頸部に付与することで,骨免疫環境を介して破骨細胞の形成を抑制し,インプラント頸部の骨吸収を防ぐ技術を着想した. マウスMΦ細胞株やマウス大腿骨骨髄由来MΦを平滑面もしくはナノ粗面のチタンディスク上で培養し,MΦの分極化を解析した.その結果,機械研磨面と比べて、ナノ表面上でM1およびM2型マーカーの発現が増加した.さらに,ラット上顎骨第一大臼歯相当部に埋入したインプラント頸部に4-0絹糸を結紮し,4週間留置することによりインプラント周囲炎を惹起させた.インプラント周囲骨吸収の定量的評価および組織学的評価を行った.その結果,平滑面インプラントの周囲組織では,歯肉組織内での密な炎症性サイトカインの産生とコラーゲン線維構造の崩壊,著しい周囲骨吸収および破骨細胞形成を認めた.一方,ナノ粗面インプラント周囲では歯肉中に炎症性サイトカインは産生されたものの,コラーゲン線維構造の崩壊や破骨細胞形成をほとんど認めなかった.これら結果から,ナノ粗面チタン表面は,MΦの分極化を促進することにより,細菌感染性炎症による歯肉線維構造の崩壊と破骨細胞形成を抑制する可能性が示唆された.
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