研究実績の概要 |
口蓋裂の原因遺伝子は遺伝子改変動物の解析から多数の遺伝子が同定されている。しかし、それにも関わらず、口蓋裂が多因子遺伝子疾患であることを説明する分子機構は解明されておらず、病態発症の本質は未だ不明である。本研究の目的はいまだ解明されていない多因子遺伝子疾患の根底にあるメカニズムを明らかにすることである。特に、Jak/Stat3情報伝達系に着目して検討した。さらに、ここで得られた知見をもとに口蓋裂の将来の治療法・予防法としての応用基盤を構築することを目標とした。
マウスの器官培養系およびin vivo実験系を用いて検討した結果、口蓋の癒合がStat3の阻害剤によって阻害され、Tgfb3の発現が有意に抑制された。一方、TGFB3はStat3のリン酸化を異所性に誘導した。Tgfb3はすでに口蓋上皮の癒合に重要であることは知られており、Stat3のリン酸化はTgfb3の発現を相方向で制御し、上皮の癒合に関与することが明らかになった。また、このStat3のリン酸化に、Jakの発現を負に制御するSocs3の発現が関与することを見いだした。興味深いことに、アルコール等の投与はSocs3の発現レベルを変動させることから、口蓋裂の癒合に、Socs3を介した、pStat3-Tgfb3シグナル経路が重要な役割を果たすことが示唆された。
一方、口蓋裂の発症を予防する葉酸はStat3のリン酸化を亢進することを見出した。Cbfb上皮特異的ノックアウトマウスでは、口蓋前方部に口蓋裂が生じる。興味深いことに、葉酸投与によって, このマウスのpStat3レベルとTgb3の発現が回復し、口蓋裂がレスキューされた。これらの所見から、今回、我々は新たに、Stat3-Tgfb3経路が口蓋の癒合に重要な役割を果たすことを見出した。この成果は将来の口蓋裂の治療法・予防法の確立のための基盤となることが期待される。
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