本研究では、口腔癌細胞において、Emi1の過剰発現あるいはCdh1のノックアウトによりAPC/Cユビキチンリガーゼの活性を恒常的に抑制し、胚性幹細胞の細胞周期調節を再現させることにより、胚性幹細胞でみられる恒常的なAPC/Cの活性の抑制を介した自己複製や未分化能の維持を誘導し、人工的に口腔癌幹細胞を作製することにチャレンジすることを目的にしている。本年度は、APC/C inhibitorであるEmi1を口腔癌細胞に過剰発現させた細胞における幹細胞マーカーの発現を検討した。昨年度、我々は、Emi1の分解ドメインを変異させた分解抑制型変異体を作成し、野生型および分解抑制型変異体をテトラサイクリン誘導性に口腔癌細胞に導入した細胞を作成し、テトラサイクリンの投与によりEmi1の発現が誘導されることを確認している。さらに、Emi1の分解抑制型変異体は、野生型に比べて、増殖能が遅く、幹細胞の性質を有することが明らかにしている。本年度は、Emi1の分解抑制型変異体を導入した細胞において、幹細胞マーカーであるNANOG、SOX、POU5F1およびFBXO15の発現上昇を確認している。興味深いことに、Emi1の分解抑制型変異体の方が、野生型に比べて幹細胞マーカーの発現が高かった。Cdh1をCRISPR/Cas9システムを用いたゲノム編集によりノックアウトを試みたが、うまくいかなかった。また、Cdh1ノックアウトマウスの胎児線維芽細胞(Mef)を用いて、幹細胞マーカーの発現を検討したところ、幹細胞マーカーの発言が見られることを見出した。また、胚性幹細胞の細胞周期の特徴であるG1期の短縮も見られることを確認した。本年度で研究は終了であるが、引き続き、Emi1を口腔癌細胞に過剰発現させた細胞のin vivoにおける役割や性質を明らかにしたい。
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