歯は上皮ー間葉相互作用により形成される器官であると知られており、毛、唾液腺胚および腎臓などと同様な形成過程をたどることで知られている。本研究では、上皮ー間葉相互作用に重要な因子を同定するため、歯をモデルとした上皮ー間葉相互作用モデルの構築を目指し、研究を開始した。 本年度は、昨年度に引き続き、同定したmiR875の解析を行った。歯に特異的なmiR875は歯の間葉細胞に強くに発現していることが判明したため、歯原性間葉細胞であるmDP細胞にmiR875-5pの遺伝子導入を行い、細胞遊走能を検討したところ、歯の上皮細胞に向かって走行性を示した。そこで、細胞遊走に重要であると知られるPDGFAAを添加したところ、細胞遊走能が亢進した。PDGFAAは歯の上皮細胞から分泌されることが知られており、本因子が上皮細胞への走行性に重要であることが考えられる。そこで、miR875によるPDGFシグナル経路制御機構を解明するため、網羅的解析を行ったところ、PDGFシグナル経路の下流で働くSTAT1およびPTENの発現を直接的または間接的に制御している可能性を発見した。PTENはPI3Kの抑制因子として知られているため、miR875がPTENの発現を抑制することで、PI3Kを活性化することでその下流のAKTが活性化し、間葉細胞の細胞遊走能を亢進している可能性が示された。 以上の結果から、miR875はPTENおよびSTAT3を制御することでPDGFシグナリングを活性化し、上皮細胞への遊走能を制御している可能性が示された。本研究成果は、上皮ー間葉相互作用の理解への一助となることが期待できる。
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