研究課題
骨基質タンパク質の1つであるオステオカルシン(OC)は、糖・脂質代謝を司るホルモン作用を有する。ヒトを対象とした疫学調査より、高いOC量は血清中性脂肪ならびにLDL-コレステロール値の低下を招くという報告がある。脂質異常症の治療薬として汎用されるフィブラート製剤は肝臓PPAR-αを活性化することで、その効果を発揮する。より強い効果を求めてスタチン製剤との併用が検討されるが、腎障害がある場合は注意が必要である。本研究では、OCによる脂質代謝亢進メカニズムを解明し、OCがスタチン製剤に代わるフィブラート製剤の補助薬となり得るか検討することを目的とする。PPARαのリン酸化はリガンドとの親和性を増加させることが知られている。マウス由来肝細胞をOC存在下で培養したとき、脂肪酸ベータ酸化系の酵素群のタンパク質発現量が増加することに加えて、PPARαのSer12がリン酸化されていた。一方、OC、ベザフィブラート(BF)、およびその併用による影響を in vivo において検証した。高脂肪高ショ糖食 (HFS) で飼育した雌性脂質異常症モデルマウスに、OC, BFを単独ならびに併用して8週間経口投与した。なお、BFとスタチン製剤であるアトルバスタチンの併用投与も行なった。その結果、対照群に比べてOC単独投与群でBF単独投与群には及ばないものの血中中性脂肪およびLDL/HDL比は低下していた。しかしながら、OCとBFの併用に関しては、コレステロール合成に関わる転写因子SREBP2の活性化型の量的抑制効果は他の薬剤の組み合わせより高かったものの、中性脂肪、LDL/HDL比についてその優位性は認められなかった。投与期間終了後にこれらのマウスの肝臓を摘出し、組織中の中性脂肪含有量を測定したところ、OC単独投与群で最も高くなることがわかった。このことは、OCによる血中中性脂肪降下作用が肝臓への取り込みを促進した結果によるものであることを示唆している。
2: おおむね順調に進展している
マウスの血中中性脂肪ならびにコレステロール値を上昇させる餌の条件検討に時間がかかったため、脂質異常症モデルマウスの作成がやや遅れたが、その後の解析作業は順調に進み、OCによる脂質異常症改善効果のメカニズム解明への足がかりを見つけることができた。このことから概ね順調に進展していると判断した。
1.OCが脂肪酸ベータ酸化系の酵素群のタンパク質発現量を増加させることに関して、以下の実験を行なう。(1) 細胞レベルでPPARalphaのリン酸化酵素・リン酸化経路について、キナーゼ阻害剤等を用いて明らかにする。(2) OCの生理活性発現におけるPPAR応答配列 (PPRE) 依存性を検証する。OCがPPARalpha-PPRE経路を通して転写活性を行なっていることについて、肝細胞を用いたPPREレポーターアッセイ、EMSAやChIPアッセイ等により検証する。2.OCによる血中中性脂肪降下作用が肝臓への中性脂肪取り込み亢進であることの検証を行う。(1) マウスにOCを投与し、肝臓において脂質取り込みに関わるFATP-1や CD36の発現量の変化、あるいはLPLの血中濃度の変化をコントロール群と比較する。(2) 肝臓においてPPARgammaは正常時にはほとんど発現しておらず、脂肪肝になると発現が誘導されることが報告されている。OCは脂肪細胞においてPPARgammaの発現を促進することが知られているため、肝臓においても同様の作用がないか検証し、肝臓での中性脂肪蓄積との関わりを検証する。OCは生体が有しているタンパク質であるため、医薬品としての副作用は少ないと予想していたが、肝臓においては有害である可能性が示唆されるので、副作用という観点からもOCを投与したマウスの全身状態を評価する。
前年度にOCによるPPARalphaの核内移行やリン酸化修飾の有無を検証する予定にしていたが、そこには至っておらず、計画は若干遅れていた。また、実験開始当初使用していたマウス肝臓由来細胞株NCTC1469が実験操作に適しておらず、新しい細胞(Hepa1-6)を購入してやり直したことがその計画遅延の原因であった。今年度には脂質異常症を誘発する飼料をデザインし、マウスを用いたin vivo実験を行ってきたが、前年度からの研究計画の遅延を引きずっているため、資金計画にも齟齬が生じている。
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