研究課題
これまでに我々は、NLRP3インフラマソーム(IFS)活性化におけるミトコンドリアの役割は活性化刺激ごとに異なり、少なくとも細胞外ATPによる活性化に際してはミトコンドリアが機能を維持している必要があることを見出している。ATPはリガンド作用性イオンチャネルであるP2X7を介してNLRP3-IFSの活性化を誘導しているが、同時にP2X7は細胞内にCa2+を流入させることが知られている。そこで、ATP刺激によるCa2+流入がNLRP3-IFSの活性化に与える影響を検討した結果、Ca2+の流入はATP刺激によるNLRP3-IFSの活性化には必要なく、むしろCa2+の過剰流入はNLRP3-IFSを抑制することが分かった。また、ATP刺激による細胞内へのCa2+の流入に伴ってミトコンドリア内へのCa2+の流入も増加した。さらに、脱共役剤CCCPはATP刺激によるNLRP3-IFSの活性化を抑えるが、その際のCCCPによるNLRP3-IFSの阻害には細胞外からのCa2+流入が必要であることが明らかとなった。以上の結果より、ミトコンドリアのCa2+調節能に依存してATP刺激時の細胞内Ca2+の濃度や分布が適正に保たれ、NLRP3-IFSの活性化が促進されることが示唆された。一方、以前我々は、化合物スクリーニングによって細胞外ATPによるNLRP3-IFSの活性化を選択的に抑制する化合物を同定しているが、そのうちの2化合物が共通して抑制するプロテインキナーゼX(PKX)についても解析を進めたところ、PKXがP2X7を介してATP刺激によって活性化されることが分かった。さらに、マウス腹腔マクロファージでPKXをノックダウンすると、ATP刺激によるIL-1bの細胞外放出が低下することから、PKXがATP刺激によるNLRP3-IFSの活性化を促進する分子であることが示唆された。
2: おおむね順調に進展している
細胞外ATPによる刺激において働く機構ということで、P2X7を介したCa2+シグナルに着目して研究を進めたことが幸いして、ミトコンドリアによるCa2+調節がATPによるNLRP3-IFSの活性制御に重要な役割を担っていることを示すデータが得られたことが大きな進捗であった。また化合物スクリーニングの結果からATPによるNLRP3-IFSの活性制御を担う分子と予想していたプロテインキナーゼX(PKX)が、ノックアウト実験により実際にそのような働きを有していることを見出したことも大きな成果であった。
PXKがミトコンドリアのCa2+調節に関わっていることを示す予備的なデータが得られているため、その点を詳細に解析して明らかにするとともに、PKXの分子機能およびミトコンドリアのCa2+制御機構とATPによるNLRP3-IFS活性化機構との接点を見出し、本研究の目的である炎症制御におけるミトコンドリアの新規機能の解明を達成したい。ただし、Ca2+についての解析においては、まだ安定していない実験も多く、より精度の高い実験系の確立が必要である。
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