生体内の骨組織や軟組織の石灰化の初期段階では、その素材となるカルシウムイオンやリン酸イオンが細胞から放出される小胞に取り込まれ内部で著しく濃度が高まることで、難溶性のリン酸カルシウム化合物を生成する。本研究では、石灰化超初期の小胞内カルシウム流入の仕組みを明らかにすることを目的とした。 平成29年度は、マウス骨芽細胞の培養上清に放出される細胞外小胞にはATP駆動型のカルシウムポンプが局在することを確認した。そこで、平成30年度は、細胞外小胞のうちエクソソームに焦点をあて、エクソソームにおけるATP代謝分子の発現を細胞の分化段階ごとに調べ、石灰化出現時のエクソソームにおけるATP代謝の関与を検討した。石灰化細胞として、マウス骨芽細胞や石灰化病変をきたす皮膚弾性線維細胞を培養し、石灰化段階に応じて放出されるエクソソームを経時的に回収した。対照としてエクソソームを放出する骨格筋細胞や正常皮膚弾性繊維細胞を培養し、石灰化細胞と同様の培養条件でエクソソームを回収した。エクソソームにおけるATP代謝分子群の発現変化をウェスタンブロット法により評価したところ、ATPの輸送分子が石灰化段階により大きく変化することが確認され、非石灰化細胞では未分化~分化初期に強く発現するが分化段階に応じて減弱するのに対して、石灰化細胞では分化後も発現量が維持されることを見出した。 これらの結果から、局所で石灰化が出現する段階に応じてエクソソーム周囲のATP環境が変化すると考えられ、エクソソームを含む細胞外小胞内にATP駆動型カルシウムポンプによりカルシウムが流入する機構が存在する可能性が示唆される。
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