研究課題/領域番号 |
17K19775
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研究機関 | 昭和大学 |
研究代表者 |
井上 富雄 昭和大学, 歯学部, 教授 (70184760)
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研究分担者 |
中山 希世美 昭和大学, 歯学部, 講師 (00433798)
望月 文子 昭和大学, 歯学部, 助教 (10453648)
鬼丸 洋 昭和大学, 医学部, 客員教授 (30177258)
中村 史朗 昭和大学, 歯学部, 准教授 (60384187)
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研究期間 (年度) |
2017-06-30 – 2019-03-31
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キーワード | 三叉神経上核 / Phox2b / パッチクランプ / グルタミン酸性ニューロン / GABA性ニューロン / グリシン性ニューロン / 三叉神経運動ニューロン |
研究実績の概要 |
Phox2bは自律神経中枢の発生に関与する転写因子の一種であり、Phox2b陽性ニューロンは、咀嚼力制御に重要であると考えられている三叉神経上核を含む三叉神経運動核背側の網様体(以下RdVと略す)に密に存在することが知られている。そこで幼若期ラットのRdVに存在するPhox2b陽性ニューロンの電気生理学的特性および形態学的特性を調べた。 実験には、Phox2b遺伝子の発現制御領域下に蛍光タンパク質EYFPを発現させたトランスジェニックラット(Phox2b-EYFPラット)を用い、in situ hybridizationにてPhox2b陽性ニューロンの神経伝達物質の種類を検索した。また、生後2-7日齢のPhox2b-EYFPラットの脳幹の前頭断スライス標本を作製し、Phox2b陽性ニューロンあるいは陰性ニューロンからパッチクランプ記録を行った。さらに、記録電極を介してバイオサイチンを記録したニューロン内へ注入してニューロンを可視化し軸索の走行を解析した。 その結果、Phox2b陽性ニューロンの大多数はグルタミン酸性ニューロンであるのに対し、Phox2b陰性ニューロンのほとんどはGABA性あるいはグリシン性ニューロンであった。また、Phox2b陽性ニューロンは自発発火を伴わない低頻度発火型ニューロンであるのに対し、陰性ニューロンは自発発火をともなう高頻度発火型ニューロンが多かった。さらに、Phox2b陽性ニューロンは陰性ニューロンと比較し三叉神経中脳路核から入力を受ける割合が低かった。一方、Phox2b陽性ニューロン、陰性ニューロンともに約半数が三叉神経運動核へ軸索を伸ばした。以上の結果から、Phox2b陽性ニューロンと陰性ニューロンは全く異なる特性を有し、吸啜や咀嚼を含む顎運動の調節に異なった関与の仕方をする可能性が示唆された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
【研究実績の概要】に示したとおり、三叉神経上核に存在するPhox2b陽性ニューロンの電気生理学的および形態学的特性は、Phox2b陰性ニューロンとの比較もあわせて詳細に解析できた。ただし、Phox2b陽性ニューロン特異的に光感受性蛋白質のチャネルロドプシン2 (ChR2)あるいはアーキロドプシンTP009 (ArchT)を発現させたラットの作成に手間取っており、光遺伝学を利用した実験が遅れている。
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今後の研究の推進方策 |
まず、Phox2b陽性ニューロン特異的にチャネルロドプシン2 (ChR2)あるいはアーキロドプシンTP009 (ArchT)を発現させたラットの作成の効率化を図る。さらに、超高感度タンパク質Ca2+センサー(GCaMP)をPhox2b陽性ニューロン特異的に発現させたラットを用い、同ニューロンの活動を蛍光Ca2+濃度変化として記録し、解析する。以下1、2に示すH29年度の実験計画を継続するとともに、新たに実験3を開始する。 実験1. 脳スライス標本上のChR2を発現させたPhox2b陽性ニューロンを光照射によって活動させて、閉口筋および開口筋運動ニューロンに対して興奮性と抑制性のどちらの出力を、各運動ニューロンに送るかを調べる。 実験2. 除脳ラット灌流標本を用い、錐体路の電気刺激によって咀嚼様運動を誘発する。光照射により、ChR2を活性化しPhox2b陽性ニューロンを強制的に活動させたとき、あるいはArchTを活性化し同ニューロンを抑制したときの、咀嚼様運動の変化を指標に、Phox2b陽性ニューロンが咀嚼に対して、促進的に働くか抑制的に働くかについて解析する。また、GCaMPによる蛍光Ca2+濃度変化を指標に、Phox2b陽性ニューロンの活動パターンと咀嚼様運動との関連を解析する。 実験3. 実験2.と同様に、光照射により、ChR2を活性化しPhox2b陽性ニューロンを強制的に活動させたとき、あるいはArchTを活性化し同ニューロンを抑制したときの、咀嚼運動の変化を指標に、Phox2b陽性ニューロンの咀嚼に対する影響を解析する。GCaMPによる蛍光Ca2+濃度変化を指標に、Phox2b陽性ニューロンの活動と咀嚼との関連を解析する。 以上の実験結果を総合的に考察し、Phox2b陽性ニューロンの咀嚼運動と自律神経系のクロストークに対する役割の解明を目指す。
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次年度使用額が生じた理由 |
平成29年度はPhox2b陽性ニューロン特異的に光感受性蛋白質のチャネルロドプシン2 (ChR2)あるいはアーキロドプシンTP009 (ArchT)を発現させたラットの作成に手間取り、光遺伝学を利用した実験が遅れため、平成29年度の使用額が当初の予定額より少なくなった。平成30年度は、平成29年度の遅れた分の研究計画に加えて光照射により、ChR2を活性化しPhox2b陽性ニューロンを強制的に活動させたとき、あるいはArchTを活性化し同ニューロンを抑制したときの、咀嚼運動の変化を指標に、Phox2b陽性ニューロンの咀嚼に対する影響を解析する。GCaMPによる蛍光Ca2+濃度変化を指標に、Phox2b陽性ニューロンの活動と咀嚼との関連を解析する。 2年間の実験結果を総合的に考察し、Phox2b陽性ニューロンの咀嚼運動と自律神経系のクロストークに対する役割の解明を目指す。
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