研究課題/領域番号 |
17K19782
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研究機関 | 東北大学 |
研究代表者 |
舟山 眞人 東北大学, 医学系研究科, 教授 (40190128)
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研究期間 (年度) |
2017-06-30 – 2020-03-31
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キーワード | 興奮性譫妄 / 突然死 / 飛行時間型質量分析 / 動物実験 / メタボロミクス解析 / 運動負荷 |
研究実績の概要 |
研究の目的は,飲酒中の激しい体動後の制圧中に突然死を引き起こす,いわゆる興奮性譫妄による死亡原因の解明である.これまでにラットを用いた動物実験でmRNA, microRNAをターゲットとしてマーカー探索を行い,その候補をいくつか見出してきた. 本研究では新たな生体マーカーの探索方法として,高速液体クロマトグラフ-タンデム型高分解能質量分析装置(LC-QTOF-MS)によるメタボロミクス解析を行った.メタボロミクス解析とは,ある組織試料中に含まれる代謝中間体,ホルモン,シグナル分子,二次代謝物などを含む全ての分子を観察し,集めてカタログ化したものである.これらは動的に時間ごと刻々と変化しており,生体の表現系と深い関係があることが知られている. さてトレッドミルで運動負荷をかけた群では、質量分析ネガテイブ測定モードにおいて質量数/電荷(m/z)が277.2166の物質がコントロール群と比較して高発現し、これはγリノレン酸と推察され,トレッドミルの運動により不飽和脂肪酸が代謝分解され,生成したものと思われた.一方でポジティブ測定モードでは,(m/z)が104.07の物質が高発現し,これはギャバ(γ-アミノ酪酸)であろうと推察された.これは主に脳や脊髄で「抑制性の神経伝達物質」として働いおり,興奮を鎮めたり、リラックスをもたらしたりする役割を果たしているとされる.運動することの興奮を抑えるために発現が促され,血中に高濃度に流入したのではないかと思われた.このように本研究のメタボロミクス解析は順調に進展している. 今後飲酒,運動を原因とする低分子量代謝物を観察し,コントロール群との比較から興奮性譫妄の原因となり得るような代謝系カスケードを推察する予定である.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本本年度はこれまでと同じようにラットを用いて (a) トレッドミル運動させた群と(b)コントロール群の二つに分けて基礎的実験の確認を行った.それぞれのラット血清を試料として,LC-QTOF-MSによるイオンデータを収集し,MarkerView ソフトウェアを用いた主成分分析を行なったところ,次のような結果を得た. 両グループのデータを比較した結果,LC-QTOF-MSのネガテイブ測定モードでは,質量数/電荷(m/z)が277.2166の物質がコントロール群と比較して高発現していた.これはγリノレン酸と推察され,トレッドミルの運動により不飽和脂肪酸が代謝分解され,生成したものと思われた.また,ポジティブ測定モードでは,(m/z)が104.07の物質が高発現し,逆に(m/z)175.0863のものが低発現で観察された.前者はギャバ(γ-アミノ酪酸)であろうと推察され,これは主に脳や脊髄で「抑制性の神経伝達物質」として働いており,興奮を鎮めたり、リラックスをもたらしたりする役割を果たしているとされる.すなわち運動時の興奮を抑えるために発現が促され,血中に高濃度に流入したのではないかと思われた.また,低発現となったのはリン脂質類であろうと推察され,いずれの分子もラットのトレッドミルによる運動が原因で観察されたことに矛盾はないと考えられた.このように本実験のメタボロミクス解析は順調に進展しており,さらに飲酒の影響が加わるとどのような分子が観察されるのか非常に興味深い.
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今後の研究の推進方策 |
今後の研究として,飲酒の影響を加味した試料の解析を行う予定である.(a) 飲酒させた群 (b)飲酒後トレッドミル運動させた群 (c) コントロール群に分け,飲酒,運動を原因とする低分子量代謝物を観察し,コントロール群との比較から興奮性譫妄の原因となり得るような代謝系カスケードを推察する予定である.
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