研究課題/領域番号 |
17K19797
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研究機関 | 東京農工大学 |
研究代表者 |
永岡 謙太郎 東京農工大学, (連合)農学研究科(研究院), 准教授 (60376564)
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研究分担者 |
平山 和宏 東京大学, 大学院農学生命科学研究科(農学部), 准教授 (60208858)
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研究期間 (年度) |
2017-06-30 – 2019-03-31
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キーワード | 母乳 |
研究実績の概要 |
本研究の目的は、母乳は単に仔を成長させる栄養源としてだけでなく、仔が健常な腸内細菌叢を獲得することを促し、その健常な腸内細菌叢が仔の健康な生体機能に寄与するといった生体内コミュニケーションの存在と重要性を科学的に証明することである。以下、2つの実施項目ごとに今年度の実績を報告する。 「母乳成分の違いと腸内細菌叢の違いとの相関性の解明」については、生後1日以内に養母交換を行い、生後10日目の乳子より糞便を回収しT-RFLP解析と次世代シークエンス解析を行った結果、野生型ミルクを飲んでいる乳子の糞便中には乳酸菌が多く存在し、菌種が少ない、すなわち多様性が低く抑えられており、LAO欠損ミルクを飲んでいる乳子の多様性は高いことを確認した。一方で、ミルク成分のメタボローム解析の結果より、野生型ミルクにはフェニルピルビン酸とフェニル乳酸が多く含まれていることが確認された。特にフェニル乳酸は他の有害菌への抗菌作用として注目されており、本研究結果は非常に興味深い。さらに、培養による腸内細菌の分離・同定において、野生型のミルクを飲んでいる乳子の糞便より特徴的な乳酸菌株を得ていることから、今後、フェニルピルビン酸およびフェニル乳酸と乳酸菌生育に関する研究を展開させる予定でいる。 「哺乳期の腸内細菌叢の違いと成長後の脳機能の違いとの相関性の解明」については、LAO欠損乳子を野生型またはLAO欠損母マウスにあてがい、生後10日目に、血液、糞便、脳組織採取した。その糞便を離乳直後の無菌マウスに移植し、2週間後に血液、糞便、脳組織のサンプリングを完了した。ドナーマウスの脳組織における遺伝子発現変化をマイクロアレイ解析により明らかにしたところ、ミルクの違いによりいくつかの興味深い遺伝子に変化が認められている。現在、これらの遺伝子についてレシピエントマウスでも変化が見られるかの解析中である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
マウスにおける母乳成分において、乳子の腸内細菌叢形成、特に乳酸菌生育に関与が示唆される成分を特定しており、次年度にその効果についてin vitroおよびin vivo双方からの証明実験を遂行可能である。無論、その他の成分についても検討を行うことで、乳酸菌を優先的に生育させるミルク成分の特定を目指す。 また、その腸内細菌叢の違いが脳機能、特に脳発達に注目し解析を行っており、哺乳中の海馬内遺伝子発現で特徴的な遺伝子を同定している。無菌マウスへの移植も済んでおり、次年度の解析において、これら遺伝子変化が移植後の無菌マウスでも確認されれば、ミルク成分―腸内細菌叢形成―脳発達に流れるコミュニケーションの存在が証明される。
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今後の研究の推進方策 |
基本的には前年度に引き続き解析を実施する 養母交換と仮親処置実験をさらに発展させ、人工保育によりどのミルク成分が腸内細菌叢の形成に影響を与えるかの実験に移行する。先のメタボローム解析で明らかとなったフェニルアラニンの代謝物であるフェニルピルビン酸とフェニル乳酸を人工乳に加えることで、腸内細菌叢に影響を及ぼすかをT-RFLP法にて解析を行う。また、哺乳期における海馬の遺伝子発現解析を行い、マイクロアレイ解析で明らかになった遺伝子変化が引き起こされるかの確認を行う。 一方で、フェニル乳酸処理などで得られた乳酸菌株、もしくはフェニル乳酸そのものを通常のマウスに投与し、脳機能をはじめとした生体効果の検証を行う。
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