研究課題
本研究の目的は、母乳は単に仔を成長させる栄養源としてだけでなく、仔が健常な腸内細菌叢を獲得することを促し、その健常な腸内細菌叢が仔の健康な生体機能に寄与するといった生体内コミュニケーションの存在と重要性を科学的に証明することである。以下、2つの実施項目ごとに今年度の実績を報告する。「母乳成分の違いと腸内細菌叢の違いとの相関性の解明」については、マウスを用いた実験により、マウスの母乳中に含まれるアミノ酸代謝酵素LAO1が乳子の腸管内において過酸化水素を産生していることを明らかにした。また、他の菌に比べて乳酸菌は過酸化水素に対して抵抗性を示した事から、LAO1が産生する過酸化水素は外部から侵入してくる細菌群に対してバリアとして働き、乳酸菌を優先的に生息させると考えられた。人においても母乳を飲んでいる乳児の菌の多様性は抑えられており、母乳摂取を止めると多様性が増えていくことが知られているが、人の母乳を用いた実験ではアミノ酸代謝による過酸化水素産生はマウスに比べてかなり低いことが確認された。この結果から、人の乳児の腸内細菌叢では主にビフィズス菌が多いことから、別の仕組みが存在すると推察された。「哺乳期の腸内細菌叢の違いと成長後の脳機能の違いとの相関性の解明」については、生後10日目の乳子において、腸内細菌叢の多様性が低い個体と高い個体の脳海馬内において神経のミエリン鞘形成に関わる遺伝子群の発現が多様性の高い個体で抑えられており、その中の一つであるGAL3ST1遺伝子発現の低下は、それらの乳子マウスから採取された糞便を移植した無菌マウスにおいても確認された。また、成長後においてミエリン結合タンパクの低下も確認されている。すなわち、哺乳中における乳子の腸内細菌叢の多様性は海馬におけるGAL3ST1発現に関与し、ミエリン鞘形成に影響を及ぼすことが示唆された。
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すべて 国際共同研究 (2件) 雑誌論文 (4件) (うち国際共著 3件、 査読あり 4件、 オープンアクセス 1件) 学会発表 (2件) (うち招待講演 1件) 備考 (2件)
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http://www.tuat.ac.jp/outline/disclosure/pressrelease/2018/20181115_01.html
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