本研究は、溺死体の血液などから藍藻類が産生する毒素ミクロシスチンを検出して、適正な死因究明を行う新たな溺死診断方法の開発を目的とした研究である。溺死は、溺水時に生存していたか否かの判断が重要であるため、古くから溺死診断には、溺水に混入している珪藻類のプランクトンを検出する検査が行われてきた。これは生存していれば溺水とともに体内に入ったプランクトンが肺臓から血液を経由して肝臓などの臓器に達するため、臓器内のプランクトンの有無を確認する方法である。一般的には、強酸で臓器を溶解して残渣を検鏡し、確認する壊機法が行われている。ところが壊機法は、安全面、環境面、設備面などに大きな問題があることから、これに代わる方法が模索されている。そこで湖沼などに発生する「アオコ」といわれる藍藻類が産生する毒素ミクロシスチンに着目した。ミクロシスチンは、高速液体クロマトグラフィーで検出が可能であることから、溺死体内からミクロシスチンを検出して溺死診断を行う方法について検討した。まずミクロシスチン解析システムを構築した。さらに、諏訪湖岸の定点から採水してミクロシスチン解析システムで検出を行ったところ検出が可能であり、溺水から検出する有効性を確認することができた。さらに過去5年間に当教室で施行した司法解剖から溺死体66体の血液、臓器、溺水についてミクロシスチンの検出と壊機法による珪藻類のプランクトンの検出を行ったところ、珪藻類のプランクトンは確認できたがミクロシスチンは検出できなかった。溺水は数十倍から数百倍に濃縮できることから検出可能であるが、採取血液などは少量のため濃縮できず、検出限界以下であることが要因のひとつと考えられる。引き続き低濃度でも対応できる高感度のシステム構築などの検討を続けているところである。
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