研究実績の概要 |
【目的】ラマン分光法は、非破壊・非接触の分析法であり近年、法医鑑識科学分野で応用されている。研究代表者はこれまで、現場で使用可能なポータブルラマン分光器を用いた血痕の人獣鑑別法の確立を行ってきた[1]。更に顕微ラマン分光法を用いて成人と乳児のラマンスペクトルを比較し、成人でのみヒスチジン(histidine)由来のピークが観察され、成人と乳児の血痕の識別が可能であることを明らかにした。これは成人ヘモグロビン(HbA)と乳児ヘモグロビン(HbF)では 2か所のHis (His116Ile と His143Ser)が置換している事に起因する[2]。今回は、更なるラマン分光法の法医鑑識科学的応用を目指し、ラマン分光法による電流痕判別の予備的検討を試みた。 【試料と方法】ブタ皮膚(5x5cm)はフナコシより購入した。リード線の先端1cmをむき出しにし、100V, 30秒電流を流し電流痕を作成した。顕微ラマン分光器(JRS-SYSTEM2000; JEOL, Tokyo, Japan)によりブタ皮膚サンプルのラマンスペクトルを得た。 【結果および考察】電流痕と通常の皮膚の部位におけるラマンスペクトルを比較したところ、電流痕の部位でのみNi-OとNi-H由来のピークが観察された。今回の予備的検討により電流痕の特定にラマン分光法が応用可能であることが示唆された。今後は更なる検討を重ねてラマン分光法による電流痕判別法の確立を目指したい。 1 Fujihara J et al. Int J Legal Med (2017) 131(2):319-322. 2 Fujihara J et al. J Forensic Sci (2019)64(3):698-701.
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