研究実績の概要 |
本研究の目的は、脳の感覚領域(体性感覚野、聴覚野)に着目し、早期産児・正期産児の処置に伴う疼痛の侵襲度を明らかにすること、そして、採血や処置等の疼痛を緩和し、ホメオスターシスを維持し、発達を促すケアを開発することである。研究グループは、有効な非薬理的疼痛緩和法がなかった早期産児の処置痛(踵穿刺)に対し、25名の早期産児に、a non-blinded, randomized controlled, two-period, two-sequence crossover trialを用いて、新介入法{音楽、おしゃぶり、facilitated tucking (四肢を体幹に引き寄せ抱く)とholding (包み込み)}を行った。そして、疼痛尺度(Premature Infant Pain Profile: PIPP)、心拍数、 経皮的動脈血酸素飽和度の測定によって、新介入法の強い鎮痛効果と早期の鎮痛効果、ホメオスターシスの維持効果を確認した。新介入法を用いた踵穿刺30秒後のPIPP値は平均3ポイントと無痛と評価できるレベルであり(6ポイント以上が疼痛有)、経口ショ糖等、多種多様な先行の介入法の鎮痛効果よりも優れている。研究成果は国際学会で発表済みである。 現在は、Effect of music (Brahms lullaby) and non-nutritive sucking on heel lance in preterm infants: A randomizedcontrolled crossover trial (Paediatrics and Child Health, 2018)の成果を踏まえ、新生児の疼痛刺激における脳の侵害受容脳活動に対し、より鋭敏に反応を示す電気生理学的指標であるElectroencephalogram (EEG)に関する先行研究の総説を投稿予定である。また、疼痛刺激のEEGによる測定研究を実施中である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
4: 遅れている
理由
新生児における痛みの測定指標は、PIPPが、多くの研究で選択されているが、Electroencephalogram (EEG)では侵害受容脳活動が有意な上昇を示す低強度の非有害刺激に対し、感度が不十分であることが示唆されている。したがって、PIPPによる疼痛の評価は十分とは言えず、近年、より鋭敏に反応を示す電気生理学的指標であるEEGが注目されている。 新生児のかかと穿刺における疼痛評価指標として、EEGは、8~32ヶ所の電極部位で、Czのみの解析から疼痛刺激による誘発電位を示している。また、健常成人の手指への穿刺においても、電極部位Czでの誘発電位が報告されている。しかし、新生児と健康成人では、疼痛刺激による誘発電位が異なる(Fabrizi, L., Verriotis, M., Williams, G., Lee, A., Meek, J., Olhede, S., Fitzgerald, M. 2016, Encoding of mechanical nociception differs in the adult and infant brain. Scientific Reports, 6, 1-9)。新生児および健康成人ともに、疼痛刺激による誘発電位は、電極部位Czにおいて、疼痛刺激後に有意なネガティブ波およびポジティブ波(N2-P2)を認めるが、新生児では、N2-P2に続き、有意な第二の波形(N3-P3)の誘発電位を得ている。疼痛刺激による誘発電位の違いが、新生児と成人による違いか、穿刺部位による違いかは不明である。 そこで、研究グループは、新生児のかかと穿刺における疼痛の特性を明らかにするために、健康成人のかかと穿刺痛をEEGで測定し、疼痛刺激による誘発電位を測定中である。
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