研究課題/領域番号 |
17K19819
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研究機関 | 九州大学 |
研究代表者 |
工藤 恵子 九州大学, 医学研究院, 講師 (10186405)
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研究分担者 |
坂 幹樹 東京大学, 大学院医学系研究科(医学部), 技術専門職員 (30447388)
辻 彰子 九州大学, 医学研究院, 助教 (10171993)
池田 典昭 九州大学, 医学研究院, 教授 (60176097)
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研究期間 (年度) |
2017-06-30 – 2020-03-31
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キーワード | 標準添加法 / 内部標準法 / 腐敗組織 / Lidocaine / 法医中毒学 |
研究実績の概要 |
本研究は、腐敗組織を含む特殊試料からの薬物の標準的定量法の確立を最終目標としている。本年度は、基礎実験として、腐敗させたブタの組織に薬物を添加し、類似度の異なる内部標準物質を用いて対象薬物を定量し、検量線の傾きや得られる定量値の正確度を比較した。 対象薬物としては、Lidocaineを選択した。内部標準物質(IS)としてはACD/MS Workbook Suite (ACD/Labs)ソフトウェアによる類似度検索にて、類似度0.75から1.0の6種類を選択した。ブタの血液、筋肉、肝臓を直ちに-20℃で冷凍保存したものを新鮮試料とし、室温25-31℃(平均28℃)で2および7日間放置したのちに冷凍保存したものを腐敗試料とした。それぞれの試料にヒトの致死濃度に相当する10μg/ml のLidocaineを添加した模擬試料について、内部標準法と標準添加法で定量を行った。前処理にはQuEChERS法を用い、分析は島津Nexera (LC)/LCMS-8040(トリプル四重極)で行った。 内部標準法で検量線を作成したところ、新鮮試料の場合、いずれのISを用いても決定係数(r2)が0.99以上の良好な直線性が得られた。この新鮮試料の検量線を用いて、腐敗試料中のLidocaineを定量すると、最大30%の定量値の増加が認められた。一方、標準添加法では、新鮮試料を用いてもISの類似度が下がるにつれて相関係数は低下した。この相関係数の低下は腐敗試料でより顕著であった。検量線の傾きは、体組織の種類と腐敗の程度で異なり、Lidocaineと構造類似度が高いISほど、傾きのばらつき幅は小さくなった。 今回の結果から、標準添加法を用いるためには、構造類似度が高いISを選択することが必須であり、ソフトウェアによる構造類似度検索を用いて適切なISを選択することが有効と思われた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
ブタの血液、肝臓、筋肉にLidocaineを添加した模擬試料を用いて、内部標準法と標準添加法で薬物を定量し、検量線の傾きや得られる定量値の正確度を比較した結果、一定の成果が得られたため。
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今後の研究の推進方策 |
1.模擬試料を用いた定量法の検討:今年度行ったLidocaineの研究成果を元に、実験を繰り返し、内部標準法と標準添加法のどちらが腐敗組織を含む特殊試料中の薬物の定量法として優れているかの判断を行う。同様の実験を抗ヒスタミン剤で睡眠改善薬として市販されているジフェンヒドラミン(市販名:ドリエル)についても行う。 2.特殊試料中の薬物に対応可能な高精度定量法の確立:上記の結果を総合的に判断し腐敗した固体組織等、法医学の特殊試料中薬物にも対応可能な信頼 性の高い定量法を確立する。実務上の利便性からは標準添加法に匹敵する内部標準法が確立できることが望ましいが、標準添加法が必須と判断される場合は、いかに効率よく真の値にたどりつけるかについて、概算濃度の推定法や濃度範囲の設定法についても検討する。概算濃度の推定には申請者らが開発した定量的スクリーニング法 (Kudo et al. Forensic Toxicol. 27 (2009) 21-31)の結果を有効に活用する 3.鑑定試料の分析:本研究の結果確立された、特殊試料中の薬物の標準的定量法に基づき、実際の鑑定試料を分析することで、本研究の成果の有用性を検証する。
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次年度使用額が生じた理由 |
本年度の研究はほぼ予定通り進み、一定の成果が得られたが、法医鑑定のために特殊試料中の薬物の標準的定量方法を確立するためには、さらなる実験の追加が必要と判断した。 次年度に研究を続けるためには、消耗品を購入する必要があるため研究費を繰り越した。
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