研究課題/領域番号 |
17K19821
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研究機関 | 熊本大学 |
研究代表者 |
小島 淳 熊本大学, 大学院生命科学研究部(医), 特任准教授 (50363528)
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研究分担者 |
道川 武紘 国立研究開発法人国立環境研究所, 環境リスク・健康研究センター, 主任研究員 (80594853)
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研究期間 (年度) |
2017-06-30 – 2020-03-31
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キーワード | 黄砂 / 急性心筋梗塞 / 慢性腎臓病 |
研究実績の概要 |
本研究の目的は、粒子状物質である黄砂やPM(particulate matter)2.5 の観測データをもとにその汚染状況を確認し、急性心筋梗塞や院外における心臓由来(心原性)の心停止発症との関係について統計学的評価を行い、粒子状物質が人体に及ぼす短期暴露に関する影響を明らかにすることである。さらにどのような患者層が粒子状物質の影響を受けて急性心筋梗塞や心原性心停止を発症しやすいのかを見いだし、疾患発症に対する粒子状物質濃度のカットオフ値を決定することである。また黄砂やPM2.5 それぞれの構成成分を分析し、病態に強く関与する物質を見いだし、発症のメカニズムを考察することである。 対象は2010年4月1日から2015年3月31日まで熊本県内で発症した急性心筋梗塞全患者である。解析は時間層別化ケースクロスオーバー法を用いて行った。黄砂が見られた翌日に急性心筋梗塞が発症しやすく(オッズ比1.46;95%信頼区間1.09-1.95)、特に非ST上昇型急性心筋梗塞が明らかであった(オッズ比2.03;95%信頼区間1.30-3.15)。黄砂は75歳以上、男性、高血圧、糖尿病、非喫煙者、慢性腎臓病患者で急性心筋梗塞を発症しやすく、特に慢性腎臓病患者ではその関係は顕著であった(P<0.01)。黄砂の影響による急性心筋梗塞の発症しやすさをみるためにスコア化を行ったところ、5-6点で有意に発症しやすいことが判明した(オッズ比2.45;95%信頼区間1.14-5.27)。以上より、黄砂は急性心筋梗塞発症と関係しており、特に慢性腎臓病の患者に発症しやすいかもしれないと考えられる。本研究結果は国内外の学会で発表するとともに、European Heart Journalに掲載され、新聞やテレビなどマスコミにも数多く取り上げられた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
平成29年度の目標は統合データベースの作成および統計解析がメインであった。我々はこれまで登録してきた熊本県内で発症した急性心筋梗塞全症例のデータを抽出し、黄砂との関係を検討した。黄砂と気象変数は熊本地方気象台で測定されたものを用いた。急性心筋梗塞の発症日時や場所、および環境データの観測日や観測地点をキーとして、それぞれの統合データベースを構築した。その後、急性心筋梗塞と黄砂との関係について時間層別化ケースクロスオ-バーデザインを用いて解析を行った。症例数は急性心筋梗塞4,509 例で、危険因子別(糖尿病、高血圧、脂質異常症、喫煙、性別、年齢)について、発症のオッズ比や95%信頼区間を算出し、粒子状物質に感作されやすい高感受性集団についても探索できた。 PM2.5との関係については現在解析中であるが、ほぼ結果が出ているため、本研究は現在のところ順調に進展していると思われる。
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今後の研究の推進方策 |
心原性心停止と黄砂やPM2.5といった環境因子について、さらに解析を進めていく。今回急性心筋梗塞発症について黄砂の影響があることが判明したため、今後は黄砂の化学組成について詳細に分析し、化学組成と疾患発症との関連について検討し、病態発症のメカニズムを明らかにしていく。
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次年度使用額が生じた理由 |
解析ソフト契約維持のための費用、国内外での学会発表のための旅費やジャーナル掲載のための諸費用が必要になるため。黄砂やPM2.5の成分を分析するためのキットを購入する必要があるかもしれないため。
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