日本安全運転医療学会等で関連研究等を継続的に整理した。地域包括支援センターの通報で診断書提出命令が可能になる等の進展もあるが、高齢者運転に対する社会の抵抗感が強まる中、各地域は苦慮している。 我々は認知機能を評価し運転技能を推測、助言する立場だが、注意力、遂行機能、視空間認知等に比して記銘障害が狭義の運転技能に与える影響は必ずしも明確でない。そこで本研究では、既存の自動車運転シミュレーターの市街地走行課題に、追加で目的地の記銘と保持を課す課題を開発し実装した。 その上で地域高齢者を対象に、認知機能評価(健診等で活用可能なタッチパネル検査)と運転シミュレーター課題を実施し関連を調査した。当初はモデル地域高齢者を網羅的に調査する計画だったが繊細な地域問題となり規模を縮小、さらに開始直後にCOVID-19問題が勃発継続し対象団体の協力を喪失、結果として積極的に検査や助言を希望する個人のみを対象とした小規模な調査となった。最終的には計13名を調査したが、大多数が認知機能と運転問題に直面している者であった。解析の結果、注意障害等はシミュレーター上の事故やヒヤリハット、各種見落とし等と関連を認めた。一方で記銘力低下は、前段開発の目的地到達課題での不達と関連したが、事故やヒヤリハット、各種見落とし、車両位置不適等とは直接の関連を認めなかった。ただし相談助言の現場では、目的地を失念し長距離・長時間走行を経て事故や保護に至る事案を時折経験するので当然注意は必要である。TDAS単語再生の失点4点超は目的地を保持できない傾向であった。 対象者中8名は運転を休止・終了すべき状態で、主に認知症疾患医療センターと共に継続フォローした。検査直後の助言で運転終了した者は1名のみ、継続対応により1年以内に2名が、さらに2年以内に3名が運転を終了した。時間をかけ環境整備に取り組む多職種協働対応が重要である。
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