研究実績の概要 |
児童虐待は,アメリカやヨーロッパ等の先進諸国や発展途上国でも多発しており,しかも多くの国々で増加傾向にある。わが国においても,児童虐待の相談件数は統計データを公表し始めた1990年度から比較すると2012年度には約60倍に膨れ上がっており,死亡事例も多発している。虐待行為は,被虐待者の後の人生においても深刻な影響を及ぼし,ひきこもり,うつ状態,自傷行為,暴力行為,薬物乱用,さらには自殺をも誘発させることが報告されている。また,虐待の影響は被虐待者への影響に止まらず,被虐待者が親になった時には,その子どもに自らが虐待行為をするといった虐待の連鎖が生じやすいことも指摘されている。このような児童虐待に対しては未然に防ぐことの重要性が指摘されており,児童虐待予防対策の検討が急務となっている。一方,フィンランドでは児童虐待に関する事件はほとんど発生していない。フィンランドは, 妊娠中から出産後の学齢期に至るまで頻繁かつ継続的な支援がなされるなど,WHOも注目する優れた母子保健システムが確立している。本研究では, 児童虐待の発生が極めて稀であるフィンランドの育児環境と,虐待による死亡事例も多発している日本の育児環境を出生人口に基づいた疫学研究の手法を用いて比較分析することにより,日本の育児環境の問題点と特徴を明らかにし,児童虐待予防を強化するための日本に適した新たな母子保健システムを開発することを目的としている。今年度の研究では,4か月児をもつフィンランドの母親の健康状態と日本の母親の健康状態を比較検討した。その結果,フィンランドの母親の方が、日本の母親に比べ,主観的健康感が有意によいことが判明した。また,それに関連する要因として,保健師の育児情報が関連していることが示された。この研究結果に基づき,日本の自治体において適用可能な母子保健システムについて検討した。
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