研究課題/領域番号 |
17K19835
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研究機関 | 高知工科大学 |
研究代表者 |
刈谷 剛 高知工科大学, 地域連携機構, 客員研究員 (00583519)
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研究期間 (年度) |
2017-06-30 – 2020-03-31
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キーワード | 行政経営 / 保健医療行政 / 政策ロジックモデル / 社会保障システム / システムズ・アプローチ / 国民健康保険制度 / 特定健康診査 / 施策・事業評価 |
研究実績の概要 |
1958年に国民皆保険体制として、現在の市町村が医療保険者となり運営する国民健康保険制度が誕生して以来、約60年が経過したが、研究初年度の平成29年度は、平成30年度からその事業運営主体を都道府県へと移管させる抜本的な制度改革のための準備に都道府県や市町村が対応しなければならなかったことから、まず、改正された国民健康保険制度の仕組みそのもの(財政的構造や保険料(税)の算出方法の変更など)の理解と把握をすることに努めた。これまで必要となる医療費(医療給付費)や保険料(税)は、財政を管理していた市町村国民健康保険が事業を運営するに際しその必要額を算出し拠出しきてきたが、この大幅な制度改正により、財源構造や事業を運営するための必要保険料(税)の算出方法・仕組みが大きく変更されたため、高知県の保険料収納必要額及び市町村ごとの国保事業費納付金額の調査・分析を行うことに専念した。 また、この抜本的制度改革に併せて、保険料の算定の基礎となる標準保険料率や医療の提供体制の整備も含めた地域医療構想と医療費適正化計画が都道府県を主体に策定されたことから、本計画で予定していた国保被保険者との特定健康診査に関するワークショップとアンケート調査よりも先に、生活習慣病を発症する病態生理の理解や、両策定計画を理解することに集中した。こうした新しい国民健康保険制度の仕組みと財政構造を分析し、正しく理解することは、本研究期間で着手することになっている保健・医療・介護を一体的に捉えた行政の計画策定システムを構築するために必要不可欠となる各種変数(要素)となるため、その変数を用いたシステムの構造(現象構造)を正確に捉えるために重要なプロセスとなった。 こうした取組を踏まえ、保健・医療・介護行政に関する領域(範囲)をシステムダイナミックスの手法で描写するための土台(因果ループ図=本システムの設計図)を構築した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
4: 遅れている
理由
平成29年度終了時における現在までの進捗状況は、平成30年度からスタートした抜本的な制度改正を受けた国民健康保険制度の実施を受けた形となり、改正された制度の仕組みやこれまでの旧制度との違いを理解し、高知県と本研究の対象としている地方自治体の財政状況、被保険者数、保険料(税)の収納状況、後発医薬品の推進なども含めた市町村独自の取組み、さらには、保険料(税)の算出(試算)の方法を把握することに努めた。そのため、当初申請時の計画において研究対象地域の被保険者とともに特定健康診査に関する問題の構造化作業を行うワークショップの開催と、受診率を向上させるためのアンケート調査の実施をすることが困難となった。併せて、研究対象地域における自治体のまちづくり協議会を主催する方々がまちの他の事業も見据えた集落活動センターの設立を強く希望したことから、地域の課題解決を優先させることも必要となり進捗状況が遅れている。 しかし、抜本的に改正された国民健康保険制度の理解と高知県下の市町村の実態把握を行うことや、都道府県が策定する地域医療構想、医療費適正化計画に基づき供給される医療サービス(提供体制)の分析と把握、さらには生活習慣病に関する心疾患や血液疾患の病態生理の理解に努めることで、保健・医療・介護を一体的に捉えた計画策定が地域住民や地方自治体で可能となると思われるため、システムダイナミックスという手法を用いたプログラム評価を実施するためのコンピューターシミュレーションモデルの土台となる因果フローダイアグラムの粗設計図(因果ループ図)とPDCAサイクルは構築できた。
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今後の研究の推進方策 |
平成29年度に実施することができなかった特定健康審査の受診率を向上させるためのワークショップの開催を地域の被保険者とともに取り組み、特定健康診査等実施計画の目標値に届かない原因を分析・把握する(問題の構造化作業とロジックモデルの確認作業)。加えて、これまでの研究結果とこのワークショップにより構造化したモデルを基に、地域の被保険者に対してアンケート調査を実施し、特定健康診査の受診率を向上させるために必要となる地方自治体の施策・事業を検証する。 また、生活習慣病に関する医療費を長期的視点から削減するというアウトカムを達成するためには、被保険者が疾病にかかるメカニズムや、加齢に伴う身体的機能の低下や要介護状態に至るメカニズムの解明が必要不可欠であることから、本研究で扱うシステムの構造(現象構造)を正確に把握するために、社会保障制度全般の理解に努める。それゆえ、介護保険制度や後期高齢者医療保険制度の仕組みを合わせた現象構造の把握・分析を行う。こうした保健・医療・介護の正しい現象構造の理解と解明により、地方自治体がこれまでのような各種個別の計画策定を行うのではなく、関係する領域(社会保障制度の範囲)を一体的に策定し評価することが可能となる。 平成31年度以降は、特定健康審査の受診後、特定保健指導の対象者となった地域の被保険者が、特定保健指導に参加する(参加しない)要因を把握するため、問題の構造化作業を通したワークショップを行う予定であるが、本研究対象地域においては、特定保健指導の対象となる被保険者数が自治体の特定健康診査等実施計画書に記載の推計者数からも人数が多くないため、特定健康診査に関するアンケート調査を実施する際、特定保健指導の対象となった者を正確に把握できるような設問を含めるなど対策を講じることに努める。
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次年度使用額が生じた理由 |
研究初年度の平成29年度は、これまで続いてきた社会保障制度の一つである国民健康保険制度が抜本的に改正される前年度に直面してしまったこともあり、平成30年度の制度の施行に向けた準備として、新しく財政運営の主体となる都道府県や、これまで運営してきた市町村がそれぞれの役割の下、保険料必要額の算定や国民健康保険運営方針の作成、保険料率の決定などが年度の終盤まで行われたこともあり、制度の仕組みや地方自治体の収支状況、保険料(税)の算出方法などを分析・把握することに重点を置いた取り組みに努めたため、研究申請時に計画として予定していた特定健康診査に関するワークショップの開催と、受診率の向上に向けた被保険者へのアンケート調査を実施できなかったことにより、次年度使用額が生じた。 平成30年度以降の研究計画を修正し、次年度使用額が生じた分をまず、特定健康診査に関するワークショップと地域の被保険者に対するアンケート調査を実施することで使用する予定。
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