研究課題/領域番号 |
17K19835
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研究機関 | 高知工科大学 |
研究代表者 |
刈谷 剛 高知工科大学, 地域連携機構, 客員研究員 (00583519)
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研究期間 (年度) |
2017-06-30 – 2021-03-31
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キーワード | 問題構造化 / ロジックモデル / 多変量解析 / プログラム評価 / 特定健康診査 / 特定保健指導 / 介護予防 / AI |
研究実績の概要 |
令和元年度の研究は、平成30年度に高知県下の協力自治体の下で実施した特定健康診査に関するアンケート調査の分析結果を踏まえ、受診率の向上に寄与すると考えられる要因(説明変数:生活習慣病に罹患する仕組み、早期予防に対する特定健康診査の大切さ、医療費や国民健康保険税が増加する仕組みなど)を掲載したパンフレットを全戸配布することで、受診率の動向を観察した。また、元年度に特定健康診査を受診し特定保健指導に該当した被保険者や、特定保健指導の非該当となった被保険者に対し、2回に渡る特定保健指導に関するアンケート調査を実施し、特定保健指導のプログラムに参加しない要因、特定保健指導に参加しても最後までプログラムを継続できない要因を問題構造化した。 また、研究課題の本題でもある、保健医療行政における計画策定方法とプログラム評価手法を一体的に捉えるためには、医療保険者が保有する医療レセプト、健診データ、介護予防・日常生活圏域ニーズ調査データ、介護レセプト、そして要介護度データが必要になることから、これらのデータを提供してくれる協力自治体及び後期高齢者医療広域連合と研究契約等を締結し、真に介護予防の対象となる被保険者に対し、介護予防のプログラムを行い、事業評価できる体制を整えた。上記のデータを協力自治体が本研究に提供してくれる仕組みを構築することで、これまで各データを保健事業関係部署や介護保険関係部署が管理していたが、自治体内の関係部署を横断的に連携させることで、被保険者一人1人のデータを一元管理・分析できることになり、個人の健康状態管理や介護予防までを総合的にケアする仕組みの準備を整えた。 加えて、介護予防事業を必要とする真の対象者を選定するため、協力自治体が持つ介護予防・日常生活圏域ニーズ調査のデータと要介護度データを使用し、AIに基づくディープラーニングを構築するための準備作業を実施した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
4: 遅れている
理由
研究初年度である平成29年度は、国民健康保険制度が平成30年度より抜本的に改正された影響を受け、従来の医療費の算出方法や財源構造が変化したため、改めて制度の理解や財政構造、保険税(料)の試算メカニズムなどを把握する必要性が生じたばかりでなく、研究計画当時に協力を得られる予定であった地域の地区組織の高齢化に伴う協力辞退も重なり、特定健康診査及び特定保健指導に関するアンケート調査への協力を受諾してくれる自治体を探す問題も発生し、予測外の時間がかかってしまった。 また、本研究の申請当初計画では、保健―医療―介護の領域を一体的に捉えた地方自治体における計画策定方法とプログラムの評価手法を構築するための研究手法として、システムダイナミックスを用いたシナリオ分析を実施し、その中の各変数の分析、特に特定健康診査に関する受診阻害要因や、特定保健指導に関するプログラムに参加しない要因等の分析手法として多変量解析の手法であるカーネル法を駆使した方法を想定していたが、研究を進める中でカーネル法は、データに存在する特徴量から線形分離可能な特徴量を新たに創り出すことはできるものの、非線形データの解析には不向きであること、さらには出力されたモデルを被保険者個々のデータに合わせる手法が適切であると判断したため、研究方法の計画を見直しが必要となった。 それゆえ、データの解析方法としてAIによるディープラーニングの手法を用いた手法に変更することを決断したが、本研究テーマを遂行するために、解析に必要となる医療レセプト、健診データ、介護予防・日常生活圏域ニーズ調査データ、介護レセプト等を一体的に提供可能な自治体、そして要介護状態になる年齢は75歳以上であることが多いという傾向から後期高齢者医療広域連合からのデータ提供も必要であると判断し、これら機関と協力関係を構築するのに時間を要した。
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今後の研究の推進方策 |
今後は、介護予防領域における研究のため、介護予防事業等を協力地方自治体より受託している事業者から既に提供されている「要介護認定データ」及び「第7期・第8期介護予防・日常生活圏域ニーズ調査」の回答データを使用し、まず既存の重回帰分析・多項ロジスティック回帰分析等を行うことで、これまでの統計学的手法の観点から、要介護度に寄与する説明変数を評価することで、要介護状態と関係があるニーズ調査における要因(変数)を探る。 次に、そのデータを活用し、AIに基づくディープラーニングを行うことで、介護予防事業を必要とする真の対象者を選定する。ディープラーニング可能となる環境を構築し、ニーズ調査の結果にモデルを合わせる方法を選択することで、これまでの線形モデルのデータ解析では分析・解釈仕切れなかった部分を汲み取ることが可能になると考える。 加えて、この要介護度データ及びニーズ調査のデータに、協力自治体から追加提供される特定健康診査等の健診データ、医療レセプト、介護レセプトデータを段階的に反映(学習)させていくことで、被保険者のデータを一元管理し分析するシステムを協力地方自治体内に構築する。 一方、疾病予防の領域においては、昨年度の特定健康診査の受診状況の事業評価(アウトプット評価)を協力自治体と行うことにより、受診率の向上に寄与した取り組みを把握することで、本年度の受診率向上へと繋げていく。 特定保健指導については、特定保健指導に関するプログラムへの参加・不参加、参加した場合にプログラムを最後まで継続できない要因を昨年度に問題構造化済なので、その構造化に基づいたアンケート調査を特定保健指導の該当者に対して実施し、そのデータを解析することで特定保健指導の実施率の向上にどのような施策や事業が必要となるか因果関係等を分析する。
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次年度使用額が生じた理由 |
平成30年度に実施した特定健康診査に関するアンケート調査の分析結果に基づき、受診率の向上に寄与すると考えられる要因(説明変数項目)、すなわち「生活習慣病に罹患する仕組み、医療費・国民健康保険税が増加する仕組み、特定健康診査を受ける大切さ(早期予防効果)など」を含めた情報を掲載したパンフレットを配布した後の変化、つまり受診率の状況(実績値)を踏まえた事業評価をする必要性があるため、該当自治体への追加調査の費用が生じている。 加えて、特定保健指導に該当する対象者から特定保健指導の内容や、参加した場合に実施されたプログラムに対する継続性を尋ねるアンケート調査を実施し問題構造化する過程を平成31年度に完了しているが、その構造化に基づくアンケート調査を実施することにより、特定保健指導への参加・不参加の要因分析(因果関係)を行うため、調査にかかる郵送費用等が必要である。 また、本研究では、疾病予防(保健事業)と介護予防を一体的に捉えた仕組み・プログラム評価システムの構築を目指しているため、AIによるディープラーニング構築に伴う費用や、介護予防プログラムの事業実施者及び介護予防・日常生活圏域ニーズ調査データ・医療レセプト・健診データ・要介護度データを提供してくれる自治体とのミーティングに伴う費用、さらには既存の統計学的手法も合わせて実施し検証するための分析ソフト代を次年度必要経費として計上する。
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