大規模な災害現場での身元確認には、現地の歯科医師の協力はもちろんのこと、被災地圏外で活動している歯科医師からの支援も必ず必要となる。 歯科医師の身元確認作業参加への障害として、日々の診療を停止して被災地に赴き、作業に従事するという物理的・時間的・経済的な制約等のいわば肉体的な負担や、災害や死といったものに触れることへの精神的な負担があるものと考える。これらの負担を軽減するための試みの一つとして、我々が現在注目しているのが、口腔内スキャナーを用いた歯科的個人識別・身元確認であり、現地に赴いて直に犠牲者の口腔内を審査して歯科所見を記載するのではなく、現場において犠牲者の口腔内に光学印象採得を適用し、作成された精密な口腔内3Dモデルを、遠隔地で受信してモニター上で診査することによって所見を記録する手法である。 これは歯科治療痕により特定個人を識別する従来通りの手法を基本としており、特別な訓練を必要とせずに行える。遠隔地の歯科医師は、地震の生活県内や診療所に居ながら、個人個人の可能な時間を身元確認業務に携わることができるために、歯科医師が身元確認作業に参加する際の大きな問題の一つを解決する。 光学印象採得を行って得られた3Dモデルから歯科治療痕が正確に診査可能かどうかを確認する目的で、歯科治療状態を再現した75症例分の上下顎模型を作成し、これらに光学印象を適用して3Dモデルを作成し、歯科治療所見の読み取りを試験した結果、肉眼所見と変わらぬ識別力がある事を示し、3Dモデルであるが為に歯科治療痕跡が確認しやすい状況がある事も明らかになった。また、2種類の3Dモデルを重ね合わせることで、同一人であるか否かを判断する基本的な手法を発表した。 身元確認に光学印象採得装置を応用することの有用性は高いと考えられる。
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