研究課題/領域番号 |
17K19854
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研究機関 | 大手前大学 |
研究代表者 |
鈴井 江三子 大手前大学, 現代社会学部, 教授 (20289218)
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研究分担者 |
大橋 一友 大阪大学, 医学系研究科, 教授 (30203897)
中井 祐一郎 川崎医科大学, 医学部, 准教授 (50271193)
飯尾 祐加 兵庫医療大学, 看護学部, 講師 (70454791)
斉藤 雅子 大手前大学, 現代社会学部, 教授 (80511617)
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研究期間 (年度) |
2017-06-30 – 2020-03-31
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キーワード | 女子受刑者 / 子育て / 養育能力向上 / 教育プログラム / 児童虐待 / 被害児童 / 刑務所 / 地域連携 |
研究実績の概要 |
【平成29年度の研究成果】 加古川刑務所女区において、全女子受刑者171人のうち出所時に18歳未満の子どもを有する母親40人中、調査に同意の得られた31人を対象に聞き取り調査を行った。その結果、会話の成立する対象者30人から聞き取り調査を行い会話は全てテープレコーダに録音し、全て逐語録とした。調査に要した時間は総計1,588分(約26時間47分)であり、データが収集できた30人分を分析の対象として、分析基礎表を作成し,分析を行った。 女子受刑者の罪名は覚せい剤取締法違反(大麻取り締まり違反を含む)20人、窃盗6人、詐欺・暴力行為・危険運転等4人であった。子どもの総数は60人で「1人」12人、「2人」10人、「3人」5人、「4人」2人、「5人」1人であり、年齢区分は乳児期1人、幼児期12人、学童期15人、思春期22人、青年期10人であった。このうち58人は健在であり、2人は死亡であった。子どもの養育者は実母や夫(元夫・内夫を含む)であったが、覚せい剤取締法が罪名の場合は、児童養護施設に入所している子どもの方が圧倒的に多かった。また、夫が女子受刑者同様に覚せい剤取締法違反等で刑務所に入所している場合も多かった。さらに、女子受刑者の実母が養育している場合、実母に内夫が居ると子どもが邪魔者扱いとなり、子どもの居場所が無くて、遅くまで外出することを強要され、夜間遅くまで徘徊したり、母親不在の家で一人暮らしをしている実態も明らかになった。この他、女子受刑者自身が児童虐待の被害児童の経験を有し、子育ての方法が分からず葛藤していることも分かった。他方、窃盗や傷害などの場合は実母や夫(元夫)が養育し、受刑者への支援もあった。 よって、子どもを持つ女子受刑者への養育能力向上を目的とした教育プログラムは、女子受刑者の背景、罪名、支援等を考慮して構築する必要があると考える。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
平成29年度は、全171人の女子受刑者のうち、調査対象者数を10人から12人程度としてデータの飽和状態を持って聞き取り調査を終了する予定であった。しかし、刑務官から研究協力依頼を行った際に、女子受刑者からの参加希望者数は31人/40人中と多く、刑期や罪状のばらつきもあることから、それらがどう子育てに影響をしているのかも明らかにしたいと考え、希望者31人全員を調査対象者とした。その結果、聞き取り調査の会話が可能であった30人を調査対象者として聞き取り調査を行い、分析対象のデータとなったために、当初予定していた謝金費用が高くなり、平成30年度の一部を前倒しで支払う必要があった。また、逐語録のデータ量が多いために、分析基礎表を作成する時間を要し、現在、分析基礎表の作成がほぼ終了する段階であり、それを基にした分析が全て終了するのは7月末頃を予定している。 平成30年度は、聞き取り調査の分析結果を基に、次年度実施予定である①子育て養育能力教条プログラム案の構築と、②半構成的質問紙票を作成し、聞き取り調査をしていない子どもをもつ女子受刑者への調査の実施を計画していた。しかし、聞き取り調査は約8割(77.5%)の女子受刑者を対象に実施したために、同刑務所内における半構成的質問紙票調査の目的を達成したと考える。 よって、平成30年度は当初予定していた通り、次年度実施予定である女子受刑者を対象とした子育て養育能力教育プログラム案の作成に着手できることから、研究は概ね順調に進展していると考える。
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今後の研究の推進方策 |
平成30年度は女子受刑者への子育て養育能力向上に向けた教育プログラム案を構築する予定である。それに際して、特に二つの点に留意して推進する。 一つ目は、罪名別にみた女子受刑者の背景や現在のサポート体制等を勘案したアプローチが必要であることが分かった。理由は、覚せい剤取締法違反で入所している女子受刑者は、彼女達の養育環境そのものが不安定であり支援が少ないために、その子ども達の置かれている環境も不安定であり支援の乏しさが伺えるためである。また、同罪名での入所者は累犯での入所回数が多く、子育てに関わっていない期間が長い傾向にあるため、親役割の理解が乏しく、適切な養育方法が分からない事例も珍しくなかった。そのため、今後教育プログラムを構築する際には、人格形成や発達心理学などを専門とする専門家の協力を得て、基本的な生活援助から社会性への教育などを簡潔に、段階的にプログラムを構築する必要があると考える。 二つ目は、女子受刑者の子育て支援を実践するため、多職種との連携や、女子受刑者の子育て相談及び教育プログラムを展開するための人材育成である。今回の調査によって、女子受刑者から、子育て相談の希望者が多いことが分かった。相談の希望時期は入所後4-5カ月頃の気持ちが落ち着いた時期と、その後半年目辺り、そして出所前の子どもに会う直前辺りが不安が強くなるため、入所中3回程度の面談希望があった。面談による子育て相談は、子どもへの説明や関係性を再考する上で効果的であり、不安が解消し、子どもに手紙を書くようになったとの意見もうかがえ、行動変容に繋がっているためである。 よって、今年度は当初予定していた刑務官の研究協力者以外に、人格形成や発達心理学の専門家の意見も得ながら、教育プログラムを構築する予定である。また、女子受刑者への子育て相談が行える助産師の育成にも着手したいと考える。
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次年度使用額が生じた理由 |
平成29年度に予定していた聞き取り調査対象者は10名~12人程度であり、データの飽和を持って終了する予定であった。しかし、出所時に18歳未満の子どもをもつ女子受刑者を対象に刑務官より研究協力者の依頼をした際に31人の同意が得られた。また、予備調査の聞き取りより、罪名別の子育て養育能力の特徴的課題が予想されたため、同意の得られた31人を対象に聞き取り調査を行い、そのうち、聞き取り調査としての会話が成立する30人を対象にデータを収集し、30人分の逐語録を分析の対象とした。その結果、当初予定していたテープお越しの費用である謝金が不足したため、研究費を前倒し請求とした。また、世界的にみて、積極的に女子受刑者への子育て支援を展開しているアデレード女子刑務所への見学研修を行ったが、当初は研究代表者のみで行う予定であったが、刑務所でのプログラムを展開する際には刑務官の理解と協力は必要不可欠であることから、研究協力者である刑務官と一緒に訪問し施設見学と意見交換を行った。 以上の理由により、当初予算を変更し前倒しをして使用するに至った。
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