研究課題
我々は、次世代型ゲノム解析装置を用いて、自然環境(河川、下水)、および、自然環境周辺に位置するヒト集団の(集団食中毒事例や無症候感染事例)ノロウイルスのゲノム解析情報を収集する。これらの情報は、ノロウイルスのヒト集団における集団発生予測の基盤情報になることが期待される。次世代型ゲノム解析装置は、大量に3-5億塩基、配列情報が収集されるため、解析するプログラムが必要である。我々は、すでに、自作の解析プログラムを作成し、学術論文で報告しているが、煩雑な作業が多く、解析に時間がかかる。よって、初年度は、より簡便な解析プログラムを作成し、既存のものと結果を比較することで精度をあげる試みを行った。今回は、2009年に大阪府内で発生した集団食中毒事例を対象として、様々な遺伝子型を検出する。汚染食材を介して、料理喫食者(n=6)と感染拡大した集団食中毒事例を対象とした。糞便試料を出発材料とし、ウイルスRNA抽出、逆転写反応後、カプシド遺伝子シェル領域(300bps)をPCRで増幅した。今回は、MiSeq (illumina社) を用いて、遺伝子増幅産物の配列情報を取得した。既存の配列解析プログラムと新しく簡便化した配列解析プログラムで亜株、遺伝子型の頻度を調べ比較した。 (i) カプシド遺伝子シェル領域の配列情報(約8.0×107 塩基 / 6検体)を取得した。 (ii) シェル領域の遺伝系統が異なるウイルス亜集団の重感染は、6検体中4検体で検出された。これは、両方のプログラムで同数であった。(iii) 本事例では、GII.4 2006b株とGII.2が検出されていた。(iv) 既存のプログラムでは、GII.2は、個体内に集団(2.2- 97.3%)として、4例で検出された。新規のプログラムでは、個体内に集団(2.9- 98.5%)で、ほぼ、既存のプログラムと同数であることがわかった。
3: やや遅れている
私共は、近畿地方に限局し、我々は、琵琶湖、流出河川である瀬田川、下流域である淀川、下流域にある感染症サーベランス 定点病院との連携し、経時的に、自然環境(河川)、同地域にて急性胃腸炎で入院していた患者糞便試料を収集する予定であった。最終的に、我々は、ノロウイルス流行株予測のため、次世代型ゲノム解析装置を用いて、自然環境(河川、下水)、および、自然環境周辺に位置するヒト集団の(集団食中毒事例や無症候感染事例)ノロウイルスのゲノム解析情報を収集し、自然環境、ヒト個体、ヒト集団内に存在する新変異株の検出を行うことを目標としていた。初年度は、(1)既存の配列解析プログラムと新しく簡便化した配列解析プログラムで亜株、遺伝子型の頻度を調べ比較したところ、ほぼ同じような結果が得られ、簡便な配列解析プログラムが解析に用いられることがわかった。(2)集団食中毒事例では、シェル領域の遺伝系統が異なるウイルス亜集団の重感染が多いことがわかった(4/6例)。感染伝播の際に、遺伝的に多様な集団から一部のウイルス亜集団が抽出されるボトルネックが生じている可能性が示唆された。臨床検体の解析はできたが、現時点では、他の自治体の行政管轄の自然環境(河川、下水)の採取が大変、困難であり、解析がとん挫している。また、今回は、配列情報を解析するコンピューターの購入が遅れ、市販されている一般のコンピューターで解析をしたため、解析数に制約があり、多くの検体を解析できなかった。
現在の問題点は、(1)自然環境(河川、下水)の採取が大変、困難であること、(2)今回は、配列情報を解析するコンピューターの購入が遅れ、市販されている一般のコンピューターで解析をしたため、解析数に制約があり、多くの検体を解析できなかったことである。(1)の問題については、現在、非常に難しいため、retrospective surveillance(後視方的研究)になるが、2012年にノロウイルス新変異株である、GII.4 Sydney 2012株が出現し、世界で大流行した。我々の起源推定系統樹解析では、2011年7月から2012年3月までに、日本国内に持ち込まれていることが示唆される(本村 他、第92回日本感染症学会総会発表 岡山 2018)。よって、2012年以前に収集されたノロウイルス陽性者の糞便試料より、いつごろから、微少集団として、GII.4 Sydney 2012株が検出されてきているかを、次世代シークエンサーを用いて、解析を試みる。初年度の研究で、我々の構築した配列解析プログラムでは、2.9%の集団を検出することができることがわかったので、臨床検体の解析を中心に実施する。この成果により、新変異株がヒト集団で主要な流行株になる時間経過が推測できる。(2)の問題については、今年度、早急に、小型ゲノムサーバーを購入し、大量の検体の配列解析を試みる。
今回は、配列情報を解析するコンピューターの購入が遅れ、市販されている一般のコンピューターで解析をしたため、解析数に制約があり、多くの検体を解析できなかった。今年度、早急に、小型ゲノムサーバーを購入し、大量の検体の配列解析を試みる。また、自然環境(河川、下水)の採取が大変、困難であり、解析がとん挫している。そのため、予算計上していた、水を濃縮するときに用いる限外ろ過機を購入しなかった。自然環境の試料入手困難の場合は、本機器を購入せず、次世代型ゲノム装置に用いる消耗品を購入する。
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