死亡直前期に患者の意識変容が生じることを、私たちは医学的に「終末期せん妄」とよび、この「終末期せん妄」を一疾患とみなし精神診断を行い対処している。すなわち、死亡直前期のせん妄を「異常な生理学的な現象」と捉えて、抗精神病薬を投与など、医学的なモデルに基づいて、原因の治療と説明と精神的なサポートを行っている。一方で、文化的には 世界各国で「終末期せん妄」を病気ではなく、「あの世にむかっている現象」とも解釈され、故人が患者を迎えにくる体験を「お迎え(death bed visions)」として国際的にも共通してみられる。本研究の目的は、「終末期せん妄」を病気ではなく、正常な死の過程の一部(お迎え(death bed visions))であるという視点を取り入れたケアは、家族の辛さを和らげるかを明らかにすることである。2020年度は、2017年度及び2018年度に計画実施した結果(単施設緩和ケア病棟でのパイロット試験)で明らかになった、「終末期せん妄」を「お迎え(death bed visions)」現象とみなすことへの医療者や家族の抵抗感の背景に関する大規模実態調査(質問紙調査)(2019年度実施)の解析を行い、その結果をもとに今後の無作為化試験の検討を行った。すなわち、多くの医療者が、「終末期せん妄」を死に至る自然の経過と捉え(95%以上)、精神疾患と捉えるべきでない(75%以上)と考えていた。また、幻覚はかえって精神的安定につながることもあるとも考えていた(60%以上)。これらのことから、「終末期せん妄」を「お迎え(death bed visions)」現象とみなすことへの医療者や家族の抵抗感は認めつつも、「終末期せん妄」を病気ではなく、正常な死の過程の一部であるという視点を取り入れたケアは妥当であることがあらためて明らかとなった。無作為化試験の実施可能性は医師の認識とは大きく関連していない可能性があり、介入試験を行うバリアの同定が必要である。
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