研究課題
前帯状回皮質は、疼痛や不安など負の情動の形成に重要な役割を果たす大脳皮質であるが、シナプスレベルでの解明は未だ不明な点が多い。これまでに、前帯状回のシナプス長期可塑性、特に興奮性シナプスの長期増強が、慢性疼痛と不安様行動に重要な可塑的変化であることを明らかにしてきた。本年度は、前帯状回のシナプス伝達を制御するモノアミン神経に着目して、前帯状回のシナプス伝達にいかなる影響を及ぼすかを調べた。モノアミンの中でも、ノルアドレナリン神経は、青斑核から脊髄へ投射する下行性抑制系としての機能の他、青斑核から脳全体に投射する上行性の役割がある。従って、この青斑核から前帯状回に投射するノルアドレナリン神経が前帯状回のシナプス伝達にどのような可塑的変化を形成するかを調べた。マウスを用いて脳スライス標本を作成し、第II/III層の錐体細胞からホールセルパッチクランプ記録を行った。そして、低濃度(10 micro M)のノルアドレナリンを灌流投与すると、興奮性神経伝達物質であるグルタミン酸の放出を促進した。一方、高濃度(50 micro M)のノルアドレナリンを投与するとinward currentsを引き起こした。さらにノルアドレナリンが作用する受容体とシグナル伝達を調べると、グルタミンの放出促進はbeta受容体-アデニル酸シクラーゼVIII型、inward currentsはalpha1受容体-アデニル酸シクラーゼI型を介することが明らかとなった。さらに、光遺伝学を用いて、青斑核から前帯状回に投射するノルアドレナリン神経を選択的に活性化すると、機械性過敏行動および引っ掻き行動を誘発した。以上の結果は、青斑核から前帯状回に投射する上行性のノルアドレナリン神経は、興奮性シナプス伝達を促進すること、また、下行性のノルアドレナリン神経と異なる機能を有していることが示唆される。
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Mol Brain.
巻: 13 ページ: 1-14
10.1186/s13041-020-00586-5.