昨年度は、SASP(細胞老化関連分泌形質)の確実な因子と考えられるPAI-1によるTGF-β1の転写制御機構を明らかにすることを目標として検討を行い、LPSによるTGF-β1分泌亢進は確認されたが、PAI-1によるTGF-β1発現の亢進や分泌促進は認められなかった。そこで本年度は、SASPの1つであるTNFαについて検討を行った。線溶系制御とは全く異なり、PAI-1がマクロファージのTNFαなどのサイトカインの発現を直接亢進するというこれまで報告がないPAI-1の新規生理作用を見出した。すなわち、マウスマクロファージ由来RAW246.7細胞株の培養系において、マウスPAI-1の添加は生理的濃度範囲である5 nMで分泌TNFα量が37倍に上昇し、それはLPS刺激と匹敵するものであった。 このPAI-1刺激によるTNFα分泌促進作用はヒトマクロファージ系のTHP-1細胞株でも確認済みである。PAI-1がマクロファージの遊走に不可欠であり、PAI-1阻害薬のTM5275がその遊走を阻害することを見出している(Arterioscler Thromb Vasc Biol. 2013;33:935-42)。しかし、PAI-1刺激によるTNFα分泌促進に対してはTM5275をはじめとして、PAI-1阻害薬として線溶系を促進することが報告されているPAI-1阻害薬のPAI-039、PAZ-417、CDE-096はいずれも影響を示さなかったが、PAI-1中和抗体は阻害した。 このPAI-1によるTNFα分泌亢進が転写調節の促進による可能性を検討する目的で、レポーターアッセイ系を構築した。さらに、特筆すべきこととして、別用途で臨床開発中に経口吸収性が問題で開発中止になった化合物(仮にCompound Xと名付ける)がPAI-1で誘導されるTNFα産生を抑制することも発見した。
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