研究課題
本研究では、乳腺と腸管の授乳期特有の遠隔臓器間相互作用の実態を実証すべく、妊娠期から授乳期にかけて、抗生物質を用いて腸内環境を攪乱させたマウスを作出し、その後の乳腺での免疫誘導(特に移行抗体の主たるサブクラスであるIgAの産生)を評価した。その結果、妊娠~授乳中の母体の腸内環境を攪乱させることで、移行抗体産生(IgA産生)は有意に減少することが示された。本結果は、母体の腸内の微生物環境が乳腺での免疫発達(特に、移行抗体産生)に重要な役割を有していることを示すものであった。授乳期の乳腺中には、移行抗体のみならず、各種の微生物が存在していることを、我々はこれまでの研究を通して報告しており、それらは、子の腸内環境の発達に重要な役割を有していると推測している。マウスを用いた試験から、乳腺における免疫および微生物環境の発達は、それぞれ独立した機序によって促されていると考えられているが、妊娠~授乳期間のヒトの腸内および乳腺での免疫および微生物環境を詳細に解析した研究は殆どない。そこで、本研究では、妊娠中および授乳中の母体より、糞便および乳汁を採取し、その中に含まれるIgA量および微生物の種を、ELISA法および次世代シーケンサーを用いたメタゲノム解析を用いて明らかにすることで、ヒトの乳腺および腸管における免疫・微生物環境の実態を明らかにすることを目指している。現在、サンプル採取を継続しているところであり、令和元年度中に、その成果がまとまる予定である。
3: やや遅れている
妊娠中および分娩後のヒトサンプルを採取しているが、予定していた数のサンプル採取に多少の時間がかかっているが、令和元年度中に研究成果を報告すべく、実験を継続している。
申請者のこれまでのマウスを用いた研究から、授乳期の乳腺には、腸内に本来生息する常在菌が多数生息していることが明らかにされている。このことは、腸管と乳腺には、双方の微生物環境を制御可能な妊娠期・授乳期特有の相互作用「乳腸相関」が存在することを強く示唆している。そこで、本課題では、マウスで得られた知見をヒトで実証すべく、[Step 1] 妊娠期(妊娠20週および36週)および授乳期(産後4週)の同一被験者より糞便と乳汁(乳汁は産後4週のみ)を採取する(被験者は、20歳以上45歳未満の30名)。(←現在、実施中)。[Step 2]得られたサンプルより微生物由来DNAを抽出し、PCRにより16sリボソームRNA遺伝子を増幅した後、次世代シーケンサーを用いたメタゲノム解析に供することで微生物叢解析を行う。さらには、[Step 3]腸内・乳汁中の微生物叢の関連性を明らかにすべく、微生物集団解析ソフト(QIIME)を用いた主成分解析を実施する。
研究期間を当初予定していた2年間から3年間に延長したため。平成30年度から令和元年度に繰り越しした研究経費は、ヒトサンプルを解析するために、計画的に使用する。
すべて 2019 2018
すべて 雑誌論文 (6件) (うち国際共著 1件、 査読あり 6件、 オープンアクセス 2件) 学会発表 (24件) (うち国際学会 4件、 招待講演 4件) 産業財産権 (1件)
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