研究課題
当該年度は、①ヒト腸管試料からの酪酸生成細菌および硫酸還元細菌の集積培養と、②ビフィズス菌による硫酸還元菌の排除作用の評価を行った。①については、硫酸、二価鉄、有機酸を含む合成培地を嫌気的に作製し、ヘッドスペースを水素、二酸化炭素、窒素を含む混合ガスにより置換したバイアル瓶に、ヒト腸管試料を接種し、37℃で培養した。集積培養液に存在する細菌の組成を16S rRNA遺伝子のクローン解析により調べたところ、ヒト腸管に存在する酪酸生成細菌として知られるEubacterium属細菌と、新種の硫酸還元細菌が常に同時に検出されたことから、これらの細菌が共生していることが示唆された。②については、ヒト大腸表層粘液からゲル濾過クロマトグラフィーにより可溶性ヒト大腸ムチンを分画・精製し、Biacore1000センサーチップ上にリガンドとして固定化した後に、ビフィズス菌および硫酸還元細菌の試験株をアナライトとして反応させ、その相互作用を調べた。その結果、本研究室で腸管付着性があることが確認されたビフィズス菌株には硫酸還元細菌に対する付着阻害能があり、特に置換・競合作用で高い効果があることが示唆された。①、②の結果から、腸管内で酪酸を生成する細菌は炎症性腸疾患の原因であることが指摘されている硫酸還元細菌と同じ条件で増殖すること、また硫酸還元細菌の付着阻害効果をもつビフィズス菌株が存在する、という炎症性腸疾患を予防するヨーグルトの開発の基盤となる知見が獲得できたと考えている。
2: おおむね順調に進展している
当初の目的である炎症性腸疾患を予防するヨーグルトに必要な、①酪酸生成細菌の増殖をサポートする機能、②炎症性腸疾患の原因と言われる細菌を排除する機能、を有するビフィズス菌の選抜に必要な材料である、酪酸生成細菌および硫酸還元細菌をヒト腸管試料から集積培養、同定し、ビフィズス菌の評価に使用できる状況になったこと、また、②に関しては、Biacore1000を用いて硫酸還元細菌の付着阻害効果があるビフィズス菌株をある程度選抜することに成功したことから、本研究ではおおむね順調に進展していると言える。
酪酸生成細菌の増殖を促進するビフィズス菌株の選抜を行うために、酪酸生成細菌とビフィズス菌株の共培養系を構築し、生成する酪酸の濃度が上昇する条件や菌株を検討すること、また、Biacore1000を用いた付着性試験に関して、硫酸基の有無で付着性が変化するかどうか、などビフィズス菌による硫酸還元細菌の付着阻害効果を明確にすること、の2点が今後の主な研究内容である。
酪酸生成細菌とビフィズス菌の共培養液のメタボローム受託解析(予算20万円)は当該年度では実施せず、次年度実施することとしたため。
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https://doi.org/10.1016/j.molimm.2017.07.009
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