研究課題/領域番号 |
17K19884
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研究機関 | 東北大学 |
研究代表者 |
倉永 英里奈 東北大学, 生命科学研究科, 教授 (90376591)
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研究期間 (年度) |
2017-06-30 – 2020-03-31
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キーワード | 神経変性疾患 / ショウジョウバエ / 栄養因子 / プロテアソーム |
研究実績の概要 |
本研究では、摂取栄養素やその代謝産物をコントロールすることで、細胞内タンパク質分解の活性化を介して、神経変性疾患の発症・病態進行を抑制できる機構を探索することを目的とする。神経変性モデルショウジョウバエを利用して、神経変性を抑制する因子や摂取栄養素とその代謝産物を同定し、それらの介在する神経変性発症・進行メカニズムの解明と予防戦略の提示を目指す。本計画の実施にあたり、適切な神経変性疾患モデル生物が必要となる。代表者はこれまでに、神経変性疾患を軽減する遺伝子をスクリーニングにより探索し、ユビキチン・プロテアソーム系を活性化するRpn11を同定した。Rpn11により軽減される神経変性疾患モデルとして、ポリグルタミン病(MJD病)モデルや筋萎縮性側索硬化症(ALS)モデルなどを確認している。ごく最近線虫において、哺乳類にも保存されている転写因子のFoxOがプロテアソーム活性を上昇させ、異常タンパク質凝集体の蓄積や神経変性の亢進を抑制することが示された。昨年度の研究から、ALSモデル系統はdFoxOにより寿命が延長されることが判明した。この結果より、今年度は神経変性疾患系統における寿命を指標に、栄養因子のスクリーニングを行った。まず、エサの組成を各種設定し、表現型を観察した。その結果、酵母(主にアミノ酸)を多く含むエサを与えた場合に、ALSモデル系統は致死性を示すことが判明した。一方で、ALSモデル系統およびMJD病モデル系統両者に共通して観察されたのは、グルコースのみで飼育すると通常エサでの飼育よりも長寿命になるという興味深い結果であった。この寿命延長の原因をさらに詳しく調べるために、研究期間を延長し、プロテアソーム活性の維持によるのかどうか調査する。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
神経変性発症を遅延・抑制できるような栄養因子のスクリーニングには、その効果を反映する指標および変性モデル系の選択が重要であり、その指標として寿命を、および変性モデル系としてALS病とMJD病を選択し解析を行った。寿命を調査する研究は、個体数の確保と環境整備が重要であり、実験室内の温度や湿度などによっても結果が左右されるほどセンシティブである。また、国内の研究室間でも通常エサ組成は大きく異なることから、今年度はまず、通常エサの寿命調査に時間を割いた。その結果、グルコースの組成と寒天濃度が高い通常エサでは寿命が約30日と短く、逆にそれらが低い通常エサでは約50日と大きく水をあける結果となった。このコントロール実験から、安定的に寿命実験を行うのに適した通常エサの組成が判明し、MJD病とALS病モデルへの寿命延長効果を観察することが出来た。この寿命延長効果の原因について、引き続き検討を行う。
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今後の研究の推進方策 |
前年度の詳細なコントロール実験から、安定的に寿命実験を行うのに適した通常エサの組成が判明し、MJD病とALS病モデルへの寿命延長効果を観察することが出来るようになったため、この通常エサを使って解析を行う。野生型の個体がグルコースのみで短寿命になる一方で、グルコースのみで飼育した場合に神経変性疾患モデル系統の寿命延長効果が観られる点は興味深い点であり、その原因について追及していく。メインにはプロテアソーム活性やインスリンシグナル経路の関与を検討する。年度内に結果をまとめ、報告する。
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次年度使用額が生じた理由 |
前年度に研究代表者が従来保持していたショウジョウバエ系統を用いて、その表現型を探索する計画が主だったものであったため、新規の試薬やショウジョウバエ系統の購入が無かったために大幅な繰越が生じた。加えて、エサの組成を改変して栄養因子の探索を行うという新規の実験は行ったが、通常作製しているエサを流用するため、これまでの研究で用いていた試料の流用が可能であった。一方今年度は、同定されたエサの組成から、栄養素としてアミノ酸を同定する研究計画の実行を行ったため、新規の試薬を購入し、寿命解析に人員が必要であったため研究補助員の雇用を行った。今年度発見した栄養組成における寿命延長効果を解析するためには、プロテアソーム解析やトランスクリプトーム解析を行う必要があるため、解析費用、人件費、外部委託費が必要となってくる。以上の理由から、基金の次年度使用額が生じた。
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