研究実績の概要 |
本研究では、研究代表者の研究室で開発した長期的Social Interaction測定装置(AMAZENG Type 1;Tsuda & Ogawa, PLoS One, 2012)を改良し、通常の飼育環境に近い状況下で、4匹のマウスの個体間での社会性行動を測定する装置(AMAZENG Type 2)を作製することを計画していた。しかしながら、AMAZENG Type 2の装置の設計に予想以上に時間がかかり、29年度中に新しい装置での解析を始めることができなかった。その代わりに、AMAZENG Type 1を用いて、社会的関係性の形成・維持に欠陥が見られることが知られているオキシトシン受容体欠損、エストロゲン受容体ベータ欠損の雄のマウスの社会的関係性行動の解析を行った。その結果、各々のwild-typeマウスと異なり、遺伝子欠損マウスでは、攻撃行動の対象となる雄マウス((精巣保持雄)と対象とならない雄マウス(精巣切除雄)とを区別できないこと、すなわち社会的関係性の形成のベースラインレベルにおいて行動変容が見られることがわかった。この結果をもとに、30年度には、当初の計画通りAMAZENG Type 2を作製し、C57BL/6J、オキシトシン受容体欠損、エストロゲン受容体ベータ欠損マウスを用いて、他個体との接触時間の多寡(social enrichment群 vs social deficit群)が社会的関係性の形成・維持に及ぼす影響について解析する。さらに、 他個体との関わりのレベルと認知、不安・抑うつ傾向との関係についても明らかにする。
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今後の研究の推進方策 |
当初の計画通り、長期間にわたって、通常の飼育環境に近い状況下で、複数個体(4個体)間で見られる社会性行動の測定を可能にする行動テスト装置を作製する。すなわち、中央エリア(40cm x 40cm)の4隅にトンネル状の通路で4つの小ケージA, B, C, D(各15cm x 8cm)を繋ぎ、各々、マウスA, B, C, Dのホームケージとする。中央エリアに設置した餌・水場に加えて、各ホームケージでも餌・水の自由摂取を可能とする。また、各ホームケージと中央エリアとを繋ぐ通路には、スライド式の不透明なドアをはめ込むことにより、マウスの通行を実験者がコントロールできる構造を作ることにより、各個体の社会的環境条件(他個体との接触時間)を実験者が自由に操作することを可能にする。さらに、装置の上に設置するCCDカメラでの連続的な記録にも基づき、中央エリア内での4個体間の関係性の量的レベルやパターンの解析ソフトウエアを確立する。その上で、(1)20週齢のC57BL/6Jの雄のマウス及び(2)20週齢のオキシトシン受容体欠損、エストロゲン受容体ベータ欠損の雄のマウスを用いて、social enrichment群(毎日、中央エリア内での6時間の同居時間)とsocial deficit群(3日おき、中央エリア内での6時間の同居時間)に割当て、2週間にわたって、中央エリア内での同居時間中の社会性行動の記録を行い、他個体との接触時間の多寡が社会的関係性の形成・維持の時系列的変化について解析する。
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