研究実績の概要 |
本研究の目的は、通常の飼育環境に近い状況下で、長期間にわたって、他個体との関わりのレベルの多寡が社会的関係性の形成・維持や、認知、不安・抑うつ傾向に及ぼす影響について明らかにすることであった。そのために、各個体の社会的環境条件、すなわち他個体との接触時間を実験者が自由に操作することを可能にする行動実験装置を新たに考案し作製した。中央エリア(40cm x 40cm)の4隅にトンネル状の通路で4つの小ケージA, B, C, D(各15cm x 8cm)を繋ぎ、各々、マウスA, B, C, Dが居住するホームケージとした。各ホームケージと中央エリアとを繋ぐ通路 には、スライド式の不透明なドアをはめ込むことにより、マウスの通行を実験者が自由にコントロールできるようにした。さらに、中央エリア内でのマウスの個体間行動の撮影記録のために装置の上にCCDカメラを設置した。30年度には、この装置を完成させ、実験開始時に約30週齢のC57BL/6の雌マウスを用いて予備実験を行なった。小ケージA、Cの居住マウスは2週間にわたって暗期に2時間、中央エリア内で自由に社会的接触をさせ(social enrichment群)、小ケージB、Dの居住マウスは、全期間にわたってホームケージでのみ過ごさせた(social deficit群)。その後、オープンフィールドテストおよび未知の雌マウスへを刺激としたソーシャルインターラクションを行い、2群間での行動を比較した。social deficit群のマウスはsocial enrichment群に較べて、オープンフィールドテストでの中央区各滞在時間が短く不安傾向が見られたものの、社会的刺激に対する興味はむしろ増大していることがわかった。
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