骨格筋の筋線維タイプ(速筋,遅筋線維)は,ミトコンドリア分布や形状に異なる特徴を持つ.ミトコンドリアの形態観察は,細胞内分布を巨視的に捉える組織化学的な評価法や電子顕微鏡による観察法がある.これらは,細胞組織の固定や標識が必要であり,生きた細胞におけるミトコンドリア形態の評価には適さない.フォトサーマル (PT) 顕微鏡は,組織中に含まれている光吸収性の分子を利用して画像化するため,ミトコンドリアを蛍光タンパクや蛍光分子で標識する必要がないほか,通常の蛍光顕微鏡や、共焦点蛍光顕微鏡よりも優れた解像度での観察が可能である.本研究はPT顕微鏡を用いて,骨格筋線維タイプ別のミトコンドリア分布や形状の特性を明らかにすることを目的に実施された.実験方法として,麻酔下においてマウス骨格筋(前頸骨筋,外側広筋)を摘出した.摘出筋(未固定,非染色)と凍結切片(凍結固定,非染色or SDH染色)を作成し,PT顕微鏡像を撮影した.その結果,SDH染色および非染色のPT顕微鏡像による平均輝度値は,速筋よりも遅筋線維で高値を示した.ミトコンドリア形状は,遅筋線維では細長い形状が多く見られ,速筋線維では点状の形状が見られた.摘出筋(未固定,非染色)においても,ミトコンドリアの分布や形状の特性を確認した.これの結果より,PT顕微鏡は,未固定,非染色の条件下でミトコンドリアのイメージングを可能にすることが示された.
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