健常者ではBMI値の高値は生活習慣病などの罹患率が高くなるが、慢性腎臓病(CKD)が悪化すると筋萎縮が起きるためCKDの透析患者ではBMI値と致死率には負の相関関係がある。オートファジーは、細胞が自らの細胞内タンパク質を分解するメカニズムで飢餓時の栄養源確保だけでなく、細胞内の異常タンパク質の蓄積を防ぐことで生体の恒常性維持に寄与しており、オートファジー障害は様々な疾患に関わる。本研究は、筋肉中の脂質代謝異常によるオートファジー障害を介したCKDに伴う筋萎縮発症機序の解明を目指す。初年度の研究では、CKDモデルラット(アデニン食投与)の腓腹筋重量の減少、筋線維の萎縮、筋分解系関連遺伝子発現量の増加を確認した。興味深いことに、CKD群の腓腹筋の不飽和化指数と脂肪酸不飽和化酵素(SCD) 遺伝子発現量の低下も確認した。さらに、筋芽細胞株C2C12細胞にSCD阻害剤を添加すると同様な結果が得られ、不飽和脂肪酸(オレイン酸: OA)を添加するとそれらは改善された。また、C2C12細胞へのSCD阻害剤の添加によりオートファジーが障害されているような結果が得られた。最終年度は、CKDモデルマウスにOAを多く含む餌を与え腓腹筋への影響を検討した結果、腓腹筋重量への影響は見られなかったが、CKD群で減少した握力は不飽和脂肪酸を与えると改善傾向がみられた。次に、筋管細胞への影響を検討した結果、SCD阻害剤により縮小した筋管細胞形態はOA添加により回復し、SCD阻害剤により増加した筋分解系関連遺伝子発現量はOA添加により改善した。さらに、筋管細胞へのSCD阻害剤添加により観察されるオートファジー障害は、OA添加により改善した。以上より、CKDの骨格筋で減少したSCD活性による脂質代謝異常がオートファジー障害等の筋分解機構を亢進して筋萎縮を引き起こす可能性が示唆された。
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