研究課題/領域番号 |
17K19918
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研究機関 | 熊本大学 |
研究代表者 |
荒木 正健 熊本大学, 生命資源研究・支援センター, 准教授 (80271609)
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研究分担者 |
荒木 喜美 熊本大学, 生命資源研究・支援センター, 教授 (90211705)
吉信 公美子 熊本大学, 生命資源研究・支援センター, 助教 (20274730)
要 匡 国立研究開発法人国立成育医療研究センター, ゲノム医療研究部, 部長 (40264288)
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研究期間 (年度) |
2017-06-30 – 2019-03-31
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キーワード | 多血症 / 自然発生突然変異マウス / 劣性遺伝 |
研究実績の概要 |
我々は、多血症及び発毛異常を示す自然発生突然変異マウスを発見し、pocy (Familial Polycythemia)と名付けた。通常、自然発生突然変異マウスは優性遺伝であることが多く、劣性遺伝は稀である。本研究の目的は、pocyの表現型を詳細に解析するのと並行して、劣性遺伝様式を示すpocyの責任遺伝子を同定し、新たな多血症及び発毛異常の病因・病態解明への糸口を見つけることである。 H29年度の計画は次の通りである。(1) pocyホモ接合体マウスをC57BL/6Nマウスと交配し、得られたヘテロ接合体マウス同士の交配を行って、新たにpocyホモ接合体マウスのスクリーニングを行う。(2) 次世代シーケンサを用いたエクソーム解析で得られた18個の候補遺伝子の絞り込みを行う。 計画(1)に関しては、表現型の原因である突然変異がホモ接合体状態であると考えられるpocyをC57BL/6Nマウスと交配し、産仔はすべて赤くないことを確認した。その上でヘテロ接合体状態になっていると予想される雌マウスと雄マウスを交配し、得られた産仔の中に赤いマウスがいることを確認した。突然変異に関して再びホモ接合体になったと考えられる赤い雌マウスと赤い雄マウスを交配し、得られた産仔はすべて赤いことを確認し、この新たなマウスラインをpocy2と名付けた。 計画(2)に関しては、18個の候補遺伝子に関する文献情報をチェックし、多血症との関係がありそうなものから優先順位を付けた。変異を検出することができるPCRのアッセイ系を構築し、最も優先順位の高かった変異mに関して、pocyはすべてホモ接合体であることを確認した。さらにpocy2においても変異mはホモ接合体であることを確認した。優先順位2番目の変異に関しては、pocyはすべてホモ接合体であったが、pocy2ではヘテロ接合体及び野生型であった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
まずpocyに関して、全自動血液学解析装置で詳細な解析を行った。C57BL/6Nと比較して、pocyの赤血球数は約2倍で、ヘモグロビン濃度とヘマトクリット値も約2倍であった。逆に血小板数は約1/3であり、平均血小板容積は1.4倍であった。 多血症の原因である突然変異がホモ接合体状態であると考えられるpocyをC57BL/6Nマウスと交配し、産仔はすべて赤くないことを確認した。その上でヘテロ接合体状態になっていると予想される雌マウスと雄マウスを交配し、得られた産仔の中に赤いマウスがいることを確認した。突然変異に関して再びホモ接合体になったと考えられる赤い雌マウスと赤い雄マウスを交配し、得られた産仔はすべて赤いことを確認し、この新たなマウスラインをpocy2と名付けた。 Pocy2についても全自動血液学解析装置を用いた解析を行い、pocyと表現型が一致していることを確認した。 生後2週、4周、6周、8週及び10週における体重を測定したところ、pocy2はC57BL/6Nと比較して、4週において有意に体重が軽いことが分かった。しかしながら、その後体重は逆転し、10週ではpocy2の方がC57BL/6Nよりも有意に体重が重かった。 次世代シーケンサを用いたエクソーム解析で得られた18個の候補遺伝子に関する文献情報等をチェックし、多血症との関係がありそうなものから優先順位を付けることにした。変異を検出することができるPCRのアッセイ系を構築し、最も優先順位の高かった変異mに関して、pocyはすべてホモ接合体であることを確認した。さらにpocy2においても変異mはホモ接合体であることを確認した。優先順位2番目の変異(a)に関しては、pocyはすべてホモ接合体であったが、pocy2ではヘテロ接合体及び野生型であった。このことは、この変異(a)は多血症と無関係であることを示している。
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今後の研究の推進方策 |
エクソーム解析で得られた変異(m)がpocyの多血症の原因である可能性が非常に高くなったので、この変異をゲノム編集技術でC57BL/6Nに導入し、多血症になるかどうかを検討する。 エクソーム解析で得られた残りの16種類の候補変異に関しても、PCRによるアッセイ系を構築し、pocyとpocy2における遺伝型解析を行う。 Pocy2の多血症の症状の経時変化を確認する。ただし、採血することで表現型が変化する可能性があるので、同じマウスから何度も採血するのではなく、生後3週、5週、8週、10週、12週、15週及び20週において採血するグループを別々に準備する。Pocy2及びC57BL/6Nマウス雄・雌各5匹を使用する。血液学検査の他に、EPO、血清鉄などの生化学検査も行う。 また、pocyには生後10週から12週にかけて突然死するマウスが多いので、突然死の原因についても解析を行う。雄の方が突然死するケースが多いので、生後8週になった雄マウスを個飼いにし、突然死を発見した場合は直ちに剖検を行い、死因の検討を行う。突然死の原因として脳梗塞や心筋梗塞の可能性が疑われるので、脳と心臓に関してはホルマリン固定を行い、病理検査を依頼する。
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次年度使用額が生じた理由 |
年度途中から措置された予算だったこともあり、この予算で支払う予定だった実験補助員の人件費を、別の予算で支払うことにしたため、平成29年度の支出額が予定よりも少なくなった。平成30年度は、実験補助員の人件費にも回すことにしている。熊本大学におけるマウス飼育経費の値段が高くなったこともあり、助成金は全て必要である。
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