研究課題/領域番号 |
17K19922
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研究機関 | 奈良県立医科大学 |
研究代表者 |
西 真弓 奈良県立医科大学, 医学部, 教授 (40295639)
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研究分担者 |
堀井 謹子 奈良県立医科大学, 医学部, 講師 (80433332)
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研究期間 (年度) |
2017-06-30 – 2021-03-31
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キーワード | 記憶の痕跡 / 光遺伝学 / 幼児虐待 / c-fos遺伝子プロモーター / ストレス |
研究実績の概要 |
成人が患う多くの精神疾患において、幼少期の虐待(身体的、性的および心理的虐待、育児放棄(ネグレクト)など)は 最高レベルの危険因子であるとも言われている。厚生労働省の調査によると児童相談所への虐待の相談件数は平成28年には10万件におよぶという報告がなされており、虐待は深刻な社会問題であることを示している。ヒトをはじめとする様々な動物で,幼少期養育環境の劣悪化が、視床下部-下垂体-副腎皮質系(HPA-axis)などのプログラミングに影響を及ぼし、その個体の成長過程及び成長後の脳の機能・構造に重大かつ継続的な諸問題を引き起こし、うつ病、不安障害、心的外傷後ストレス障害(PTSD)、薬物依存、摂食障害等に罹患する確率が上昇することが報告されている。しかし、幼少期のストレスが脳のどの部位に記憶の痕跡として残され、生涯にわたって行動に影響を及ぼすのか、その神経基盤は未だ解明されていない。 本研究では、幼児虐待の動物モデルの一つである母子分離マウスを用い、幼少期の母子分離ストレスによって活性化する神経細胞を非可逆的にラベルし、成体において母子分離記憶の痕跡をオプトジェネテイクスの手法を用いて再活性化することにより、母子分離記憶を想起することが出来るかを検討する。そして「虐待は繰り返される」、すなわち「虐待を受けた子供が親になった時に自らも虐待行動を引き起こす」という概念の分子基盤を明らかにし、幼少期に受けた虐待等のストレス記憶が、特定の神経細胞ネットワークに存在するのかを解明することを目的とする。それによって劣悪な幼少期養育環境が精神神経疾患等を引き起こすメカニズムを解明し、さらに生育後の精神神経疾患の予防・治療法の開発を目指す。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
Tetオン/オフシステム、Cre-Loxシステムとlox-STOP-loxカセットを用い、神経細胞の活動マーカーであるc-fos遺伝子のプロモーター制御下でチャネルロドプシン2(ChR2:青色の光刺激で細胞を活性化するクラミドモナス由来のタンパク質)-mCherry(赤色蛍光タンパク質)を非可逆的に発現する遺伝子改変マウス(トランスジェニック(Tg)マウス)の作製を継続して行なっている。
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今後の研究の推進方策 |
作製したマウスを用い、予めDoxオン/オフによってc-fos遺伝子の発現が調節されるかについて、マウスに急性拘束ストレスを負荷し、c-fosが顕著に増強することがわかっている視床下部の室傍核において、mCherryを指標にして検討する。母子分離期間中に特異的に活性化したChR2陽性神経細胞を光ファイバーによって青色光で刺激し、血中グルココルチコイド濃度、各種行動試験(恐怖・不安・報酬行動)を指標にして、症状が変動(悪化)するかを検討し、母子分離記憶の想起を試みる。さらに、母子分離を受けたメスマウスを妊娠・出産させ、母子分離記憶の痕跡が残されたChR2陽性神経を光刺激した際に、子育て行動が劣化するかを観察し、「虐待は繰り返されるか」、すなわち「虐待を受けた子供が親になった時に自らも虐待行動を引き起こす」かについて解析する。
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次年度使用額が生じた理由 |
研究分担者の堀井が体調不良のため、一時期時短勤務にしていたこと。さらに、一旦作製したトランスジェニックマウスの繁殖がうまくいかず、光遺伝学を用いた行動実験が進められないなど、研究遂行に想定以上の時間を要したため。今年度行う光遺伝学実験の器具、試薬等の購入に用いる。
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