研究課題
成人が患う多くの精神疾患において、幼少期の虐待(身体的、性的および心理的虐待、育児放棄(ネグレクト)など)は 最高レベルの危険因子であるとも言われている。厚生労働省の調査によると児童相談所への虐待の相談件数は平成28年には10万件におよぶという報告がなされており、虐待は深刻な社会問題であることを示している。ヒトをはじめとする様々な動物で,幼少期養育環境の劣悪化が、視床下部-下垂体-副腎皮質系(HPA-axis)などのプログラミングに影響を及ぼし、その個体の成長過程及び成長後の脳の機能・構造に重大かつ継続的な諸問題を引き起こし、うつ病、不安障害、心的外傷後ストレス障害(PTSD)、薬物依存、摂食障害等に罹患する確率が上昇することが報告されている。しかし、幼少期のストレスが脳のどの部位に記憶の痕跡として残され、生涯にわたって行動に影響を及ぼすのか、その神経基盤は未だ解明されていない。本研究では、幼児虐待の動物モデルの一つである母子分離マウスを用い、幼少期の母子分離ストレスによって活性化する神経細胞を非可逆的にラベルし、成体において母子分離記憶の痕跡をオプトジェネテイクスの手法を用いて再活性化することにより、母子分離記憶を想起することが出来るかを検討する。そして「虐待は繰り返される」、すなわち「虐待を受けた子供が親になった時に自らも虐待行動を引き起こす」という概念の分子基盤を明らかにし、幼少期に受けた虐待等のストレス記憶が、特定の神経細胞ネットワークに存在するのかを解明することを目的とする。それによって劣悪な幼少期養育環境が精神神経疾患等を引き起こすメカニズムを解明し、さらに生育後の精神神経疾患の予防・治療法の開発を目指す。
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