研究課題/領域番号 |
17K19934
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研究機関 | 横浜薬科大学 |
研究代表者 |
田辺 由幸 横浜薬科大学, 薬学部, 教授 (10275109)
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研究分担者 |
前田 利男 静岡県立大学, 薬学部, 教授 (00137069)
斉藤 麻希 岩手医科大学, 薬学部, 助教 (40365185)
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研究期間 (年度) |
2017-06-30 – 2020-03-31
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キーワード | ddY系マウス / 肥満抵抗性 / 耐糖能 / apoB / CD36 / レプチン / 肝β2受容体 / グリコーゲン |
研究実績の概要 |
交雑系ddY系マウスの肥満抵抗性個体の代謝特性と生理・薬理学基盤を解明する為、肥満抵抗性群(lean)、易肥満群(fat)、通常餌群(ND)を対象に肝と脂肪組織における糖・脂質代謝関連因子ほか計84種類の内因性遺伝子の発現と腸内細菌13種をリアルタイムPCR法で解析した。また、血中の糖・脂質およびアディポサイトカイン、肝グリコーゲン量を測定した。 fatは明確な耐糖能異常およびインスリン感受性の低下を示したが、leanでは空腹時血糖がNDより低く、ipGTTとITTはNDと同等であった。長期のHFD負荷にもかかわらずleanでは肝脂肪蓄積が強く抑制された。leanの血中LDL値は有意に低く、肝リポタンパク質関連遺伝子(apoBほか)と下流分子(cdeb、fsp27)、肝での脂肪蓄積に関連する核内受容体(PPARγ、SREBP-1sほか)や酵素、β酸化関連酵素(CPT-1aほか)、脂質輸送・異化排泄関連分子(CD36ほか)の発現はfatに比べ低く、NDと同程度であった。各種リパーゼの発現には明確な差は見られなかった。fatは高レプチン血症を呈したが、leanの血中レプチン量はNDと同程度であった。また、leanの肝では、特にアドレナリンβ2受容体の発現上昇が強く抑制されていた。脂肪組織においてはβ1─3何れの受容体も発現に差はみられなかった。fatの肝グリコーゲン量は低値を示したが、lean肝ではNDと同程度のグリコーゲン蓄積であった。一方、腸内細菌叢には群間で明確な差は見いだせなかった。 以上の結果からddYコロニーlean個体では、高脂肪摂餌によっても一連の脂質合成・蓄積関連遺伝子の発現が上昇せず脂肪肝形成が抑制され、血中レプチン量が低値かつ肝β2受容体の発現が低レベルのため肝グリコーゲン分解が抑制され、ひいては耐糖能やインスリン感受性が正常に留まる可能性が示唆された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
肥満・非肥満マウスの摘出組織における各種解析や脂肪組織からの脂肪前駆細胞の取得も行い、当該年度の解析および次年度に引き継ぐ試料調製も概ね順調に実施した。共同研究者の前田博士および斉藤博士とは、随時の相互訪問および情報通信により実験技術授受および情報交換を行っており、実験データの取得および解析は概ね順調に行われていると考える。 研究成果の一部は、第38回日本肥満学会(大阪)で1題、題138回日本薬理学会関東部会(東京)で2演題、それぞれ共同演題として研究発表を行った。
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今後の研究の推進方策 |
前年度に取得したサンプルを用いて解析対象遺伝子および組織を更に拡大して継続する。 また、①脂肪細胞(Adipo)―マクロファージ(mφ)相互作用におけるメカニカルストレス 応答性分子の探索を目的として、コラーゲンゲル三次元構築下でのAdipo─mφのストレッチ実験を行い、Adipo側・mφ側それぞれの特異的遺伝子発現変動や細胞内シグナルの変化を解析する。②食餌性肥満に抵抗性を示すddYコロニー由来のHFDlean個体およびddY-L系統の遺伝子発現および遺伝子多型の解析を行う。他の近交系マウス(PWK など)において報告のある肥満抵抗性関連遺伝子の関与(pref-1,Igf2, Peg3 など)の有無、他の関連遺伝子座の多型の有無について解析する。③引き続き、ヌクレオフェクター導入装置および顕微鏡ステージ上での培養ストレッチ刺激装置を活用し、培養脂肪細胞へのMS 受容体候補分子の過剰発現またはノックダウンにより、メカニカルストレス下流シグナルの変化(リン酸化、Ca2+動態、ストレスファイバー再構築など)を解析する。
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次年度使用額が生じた理由 |
旅費は所属機関からの支出によりまかなった。また、英語論文校正費および論文投稿費用は支出がなかった。試薬・消耗品については、キャンペーン・ディスカウント等を活用し、費用節減に努めた。次年度は比較的高額な試薬・抗体や各種キット類の購入を控えており、価格上昇および消費税増税にも対応し、効率的かつ円滑な研究遂行のために次年度に繰り越す。
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