研究課題/領域番号 |
17K19937
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研究機関 | 関西医科大学 |
研究代表者 |
松田 達志 関西医科大学, 医学部, 准教授 (00286444)
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研究期間 (年度) |
2017-06-30 – 2019-03-31
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キーワード | 胸腺退縮 / mTEC / cTEC / mTORC1シグナル / 免疫老化 |
研究実績の概要 |
本年度は【課題1】胸腺退縮の分子機構の解明、ならびに【課題2】胸腺退縮が免疫応答に及ぼす影響の評価、の2課題に重点的に取り組んだ。 タモキシフェン誘導性に全身の細胞でmTORC1シグナルを欠失させたところ、胸腺髄質上皮細胞(mTEC)ならびに胸腺皮質上皮細胞(cTEC)の両者において著しい細胞数の低下が観察されると共に、胸腺上皮細胞のマスター制御因子であるFoxn1の発現低下が観察されたことから、mTORC1依存性のFoxn1発現制御が胸腺環境の維持に必須の役割を果たしていることが強く示唆された。 一方、【課題2】を実施するにあたり、徳島大学・高濱教授が開発したドキシサイクリン依存性に胸腺上皮細胞特異的にCreを発現するマウス(β5trt-TA;tetO-Cre)を用いて、胸腺上皮細胞でのみmTORC1シグナルを欠失可能なマウス(Raptorfl/f;lβ5trt-TA;tetO-Cre)を樹立した。得られた成獣マウスをドキシサイクリンで処理して胸腺退縮の有無を調べたところ、予想に反して、胸腺退縮が全く観察されなかった。詳細を調べたところ、cTECにおいてmTORC1シグナルが消失していたのに対し、mTECではRaptor遺伝子の欠損が起きていないことが分かった。一方、β5trt-TA;tetO-CreマウスとRaptorfl/flマウスを交配させた上で、妊娠マウスにドキシサイクリンを投与したところ、生まれてきたRaptorfl/fl;β5trt-TA;tetO-Creマウスにおいて、明らかな胸腺サイズの縮小が観察されると共に、mTEC細胞数の減少ならびにmTEC細胞におけるmTORC1シグナルの低下が観察された。すなわち、mTECにおけるmTORC1シグナルが胸腺環境の維持に特に重要であるものと推察された。現在、当該マウスの免疫応答の変容の有無を検証中である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
本研究提案の根幹は、成獣において人為的に胸腺退縮を誘導することで個体の免疫応答がどのような影響を受けるかを観察する点にある。しかし、当初予定していたβ5trt-TA;tetO-Creマウスによる誘導的mTORC1シグナル欠失の系は、cTECにおけるmTORC1シグナルの欠失を誘導できる一方で、mTECにおけるmTORC1シグナルに変化を及ぼさず、その結果成獣における「人為的胸腺退縮」を誘導することができなかった。以上の結果は、胸腺環境を構成する上皮細胞の中でも特にmTECが重要な役割を果たすことを強く示唆しており、その点で重要な知見と言える。その一方で、当初予定していた胸腺環境の異常が個体レベルの免疫応答に及ぼす影響を評価する系として、大きな問題を抱えることになったのも事実である。その後の試行錯誤の結果、胎児期のドキシサイクリン投与によって胸腺サイズを縮小しうることが明らかとなったため、現在解析の遅れを挽回すべく、交配数を増やしてRaptorfl/fl;β5trt-TA;tetO-Creマウスの個体レベルでの免疫応答の質的・量的な変容の有無を検討中である。
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今後の研究の推進方策 |
本年度の取り組みによって確立した、胎児期Raptorfl/fl;β5trt-TA;tetO-Creマウスへのドキシサイクリン投与による胸腺サイズ縮小の系を用いて、胸腺環境の変化が個体レベルの免疫応答に影響を及ぼすか否かの検証を行う。また、並行して、mTORC1シグナルの負の制御因子であるTsc1を同様に胎児期mTECで欠失させることで、免疫老化を遅延させることができるか否か、検証に取り組む。さらに、今回の取り組みで明らかとなったβ5trt-TA;tetO-Creマウスによる誘導系の限界を克服すべく、胸腺上皮のマスター制御因子であるFoxn1の支配下にCreERT2を発現するマウスの樹立にも取り組む予定である。当該マウスを樹立することができれば、Raptorfl/fl;CreERT2マウスと同様に成獣において任意のタイミングで胸腺退縮を誘導しつつ、長期にわたって個体レベルでの免疫応答を評価可能な系が確立できるものと期待される。
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