研究者はこれまでに魚介類や食肉類に多く含まれる核酸系旨味物質のアデノシン一リン酸(AMP)をデキストラン硫酸ナトリウム(DSS)により惹起した慢性大腸炎マウスに投与したときに、大腸組織のAMP-activated protein kinase(AMPK)の活性化を介して、大腸組織における炎症性サイトカイン(TNF-α、INF-γ、IL-17A)産生が抑制され、下痢・血便の程度が改善して大腸炎が緩和されることを見いだした。そこで、本研究はAMPによる抗炎症作用機序を探索するため、大腸粘膜固有層に浸潤した炎症性ヘルパーT細胞(Th1・Th17)及び制御性T細胞(Treg)に焦点をあて、それら細胞を蛍光標識抗体により染色してフローサイトメトリー法によりそれぞれの細胞比率を計測した。しかし、大腸炎で増加するTh1・Th17細胞比率は正常対照群に比べ大腸炎群で著しい増加が認められず、また、AMP投与群では解析したすべてのヘルパーT細胞の比率が3群中最も少なくなった。実験手技の問題なのか理由はわからないが、フローサイトメトリー法よる解析はうまくいかなかった。 次に大腸病理組織標本を使ったDAB法による免疫組織化学染色による解析を試みた。残念ながら、Th1及びTh17細胞の染色は非特異的な染色が見られうまく解析できなかった。一方、Treg細胞は正常対照群に比べ大腸炎群で中等度の発現が認められたが、AMP投与群の発現は軽度に抑制された。 総じてAMPにはヘルパーT細胞の発現を抑制するような傾向が認められたものの、残念ながら本研究ではAMPによる抗炎症作用へのヘルパーT細胞系の関与を明らかにすることができなかった。今後はヘルパーT細胞系に加え腸上皮細胞の炎症関連シグナル伝達系、樹状細胞やマクロファージ活性なども調べる必要があると思われる。
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