研究実績の概要 |
我々は、がん細胞と周辺細胞との相互作用(がんの微小環境)が放射線発がんにどのように寄与するのかに着目し、発がんの機序解明に取り組んでいる。がん組織を構成する間質細胞である線維芽細胞は、がん細胞の増殖や浸潤に関与し、正常線維芽細胞とは性質が異なることからがん関連線維芽細胞(Cancer Associated Fibroblasts:CAF)と呼ばれている。これまでの我々の解析から、放射線はヒト正常線維芽細胞からCAFを誘導すること。放射線誘発CAFは、ミトコンドリアから発生する活性酸素が主な原因であり、がんの微小環境を形成して放射線発がんに関与することを明らかにした(Shimura et.al., Molecular cancer research 2018; 16(11), 1676-1686)。CAFの指標である平滑筋用アクチン(alpha-SMA)の発現解析により、放射線の照射条件(急性照射、長期分割照射と慢性照射)でCAF誘導のしきい線量が異なることを明らかにした。活性酸素は急性照射に比べ、分割照射ではより低い線量で増加し、CAFを誘導することを明らかにした。さらに、CAFの寿命についての解析を行い、放射線傷害からの回復により細胞増殖が再開することで、CAFが排除されることを明らかにした。一方、高線量の放射線では、細胞増殖が阻害され、CAFが維持されることを明らかにした。本研究のがんの微小環境の解析により、従来の方法では解析困難であった放射線によるがんの発症メカニズムの解明が期待される。
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