研究課題/領域番号 |
17K19945
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研究機関 | 国立研究開発法人国立精神・神経医療研究センター |
研究代表者 |
若月 修二 国立研究開発法人国立精神・神経医療研究センター, 神経研究所 疾病研究第五部, 室長 (00378887)
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研究期間 (年度) |
2017-06-30 – 2020-03-31
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キーワード | 筋萎縮 / 神経保護 / 神経筋接合部 / 活性酸諸種 / 軸索変性 / ユビキチンリガーゼ |
研究実績の概要 |
筋萎縮は神経難病や糖尿病などの生活習慣病によっても生じ、認知症と並んで介護予防の面からも社会的要請の強い研究課題である。しかしながら、現在の医学では完全に萎縮した筋を回復させることは不可能であり、筋萎縮の予防法や治療法の開発など、革新的な医療の創成が求められているが、筋萎縮の病態が出現するメカニズムは未だ十分な理解が得られていない。 神経筋接合部(NMJ)は脊髄運動ニューロンと筋との間に形成されるシナプスである。坐骨神経繊維を実験的に切断して除神経を施した筋では、正常マウスでは切断2–3日後にはNMJの膨大化とそれに続く軸索の退縮が筋萎縮に先行して観察されるが、さまざまなストレスからニューロンを保護するフェノタイプをもつ自然発症変異マウスwldsでは軸索構造が保たれ、NMJを介する電気的活動が維持される。このようなフェノタイプをもつマウスが存在することは、軸索変性を阻止、乃至は遅延させることにより、NMJを機能的に保護できる可能性を示唆した。 申請者は軸索変性を促進するユビキチンリガーゼZNRF1に着目した研究を行い、活性酸素種(ROS)がシグナル伝達因子の如く作用してZNRF1を活性化し、軸索を変性させることを明らかにした。ZNRF1の活性抑制はwldsにおける保護とは独立した分子機序により軸索を変性から保護する。興味深いことに、筋萎縮に伴うNMJの変性はROSによる酸化ストレスにより誘導されること、運動ニューロン終末でのオートファジー・リソソーム活性が関与することなどが報告されており、申請者が明らかにした軸索変性の誘導メカニズムと共通する部分が多い。これらのことから、申請者はNMJの変性として筋萎縮を捉え、NMJを変性から保護することが筋萎縮の抑制につながる、との仮説を検証しようと考えるに至った。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究ではNMJ保護に着目し、筋を萎縮から保護する方法論の確立を目指す。そのため、申請者が同定した軸索変性を促進するZNRF1の活性制御機構を詳しく調べ、これを阻止することがNMJの保護、ならびに筋萎縮の抑制方法として有効かどうかを検討した。本年度は主にZNRF1のリン酸化/活性化制御に関する解析を中心に研究を進めて以下の結果を得た。 1)NADPHオキシダーゼの活性化機構に関する解析 RNA干渉により個々のオキシダーゼ遺伝子を発現抑制した場合のZNRF1 Y103のリン酸化、ニューロンの変性阻害を指標にZNRF1の活性制御に関わるオキシダーゼを特定した。変性スタートによりNOXのひとつがMAPKファミリーの蛋白キナーゼによりリン酸化されること、また予想されるリン酸化サイトをアミノ酸置換により無効にすると、ZNRF1のリン酸化/活性化が低下することを見出した。 2)ZNRF1阻害剤の探索 ある種のEGFR阻害剤がZNRF1の活性化を阻害することを見出した。
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今後の研究の推進方策 |
引き続きZNRF1阻害剤の探索など、ZNRF1の活性制御機構の詳細を調べるとともに、これまでの研究成果をもとにした動物個体レベルの解析を行う計画である。特に「ZNRF1阻害剤」として得たEGF受容体の阻害剤によるNMJの保護が筋萎縮の抑制に有効かどうかを検討する。 本研究により「1.筋を萎縮から保護するシステム」が分子レベルで明らかとなる。これらの研究成果を総合的に検討することにより、「2.筋萎縮が出現するメカニズム」を導き出し、筋萎縮から筋を保護・温存する方法論に基づく治療方法の創成を目指す。
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次年度使用額が生じた理由 |
効率的な運用や有利な支出を心がけた結果、節約となった。 残金は次年度使用計画に従って適切に使用する。
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