筋萎縮は神経難病や糖尿病などの生活習慣病によっても生じ、認知症と並んで介護予防の面からも社会的要請の強い研究課題である。しかしながら、現在の医学では完全に萎縮した筋を回復させることは不可能であり、筋萎縮の予防法や治療法の開発など、革新的な医療の創成が求められているが、筋萎縮の病態が出現するメカニズムは未だ十分な理解が得られていない。 本研究では神経筋接合部(NMJ)保護に着目し、筋を萎縮から保護する方法論の確立を目指し、軸索変性を促進するZNRF1のはたらきを阻止することのNMJ保護、ならびに筋萎縮抑制への有効性を検討した。 昨年度までにダメージを受けた軸索では活性酸素種(ROS)が産生され、ROSにより活性化したEGF受容体がZNRF1を直接リン酸化することでZNRF1のユビキチンリガーゼ活性が高まること、ROS産生にはNADPHオキシダーゼが関与すること、などを明らかにした。NADPHオキシダーゼは複数のサブユニットから構成される膜局在複合体として活性化しROSを産生するが、変性する軸索では、NOXを構成するサブユニットのひとつがMAPKファミリーの蛋白キナーゼによりリン酸化されること、また予想されるリン酸化サイトをアミノ酸置換により無効にすると、ZNRF1のリン酸化/活性化が低下することを見出した。本年度は活性化したZNRF1がNADPHオキシダーゼと複合体を形成すること、この複合体形成を薬剤により阻害すると軸索変性が抑制されること、などを見出した。また、EGF受容体阻害剤など、培養モデルにおいて軸索保護効果が確認された小分子化合物動物の一部には個体レベルにおいて軸索を変性から保護することが確認された。
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