研究課題/領域番号 |
17K19946
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研究機関 | 国立研究開発法人国立精神・神経医療研究センター |
研究代表者 |
山下 祐一 国立研究開発法人国立精神・神経医療研究センター, 神経研究所 疾病研究第七部, 室長 (40584131)
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研究期間 (年度) |
2017-06-30 – 2019-03-31
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キーワード | 非薬物療法 / 依存症 / 脳神経疾患 / ハイパーソニック・エフェクト / 認知行動療法 |
研究実績の概要 |
アルコール・薬物依存では、一度断酒・断薬に成功しても、再飲酒・再摂取の欲求に負けて再発してしまうケースも少なくない。このため、その治療においては、アルコール・薬物に対する「渇望感」をコントロールすることが、最も重要な課題の一つである。本研究は、人間の可聴域上限を超え耳に聞こえない超高周波成分を豊富に含む音響情報が、報酬系神経回路を活性化する効果(ハイパーソニック・エフェクト)を応用し、アルコール・薬物に対する「渇望感」を軽減し、アルコール・薬物依存の再発を予防する新規代替・置換療法の開発することを目的とする。 具体的には、アルコール・薬物依存の診断で、国立病院機構久里浜医療センターにおいて、入院治療を受けている患者に対して、認知行動療法実施中に、人の可聴域上限をこえる超高周波成分を豊富に含む音響を呈示することで、アルコール・薬物に対する「渇望感」の軽減効果、再発予防効果を検証する臨床試験をおこなうものである。 初年度である平成29年度は、音響コンテンツや呈示方法(デバイス、機会、音量、呈示時間など)について、本研究の目的のために最適な方法の探索的検討を行った。音響の呈示機会としても、作業療法、認知行動療法中を中心に、探索的に予備試験を行った。これまでの健常人を対象とした一連の実験室実験や、うつ病患者、認知症患者を対象とした実験などで使用してきた方法をベースに、本研究の目的のために最適な方法の探索的検討を行った結果、音響コンテンツや呈示方法(デバイス、機会、音量、呈示時間など)についての最適化は完了し、臨床試験開始の準備が整った。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
当初の計画において、初年度である平成29年度は、依存症の音響療法に最適化した、音響コンテンツや呈示方法(デバイス、機会、音量、呈示時間など)の探索的検討を予定していた。音響コンテンツや呈示方法についての最適化は完了し、臨床試験開始の準備が整った。平成30年度からは、すでに臨床試験の開始が可能になっている。以上より、順調に計画は進捗していると言える。
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今後の研究の推進方策 |
平成29年度までの探索的検討に基づいて、アルコール・薬物依存の渇望感に対する高周波音響療法の有効性を検討する臨床試験を行う。DSM-5 でアルコール使用障害、物質使用障害の診断基準を満たす国立病院機構久里浜医療センターの入院患者を対象に、人の可聴域上限をこえる超高周波成分を豊富に含む音響を呈示する高周波音響療法を実施する。人の可聴域上限をこえる超高周波成分を豊富に含む熱帯雨林の自然環境音(フルレンジ音)による介入刺激に対して、同じ音源から高周波成分のみを取り除いた音響(ハイカット音)を対象刺激として、クロスオーバー試験として行う。本研究においては、精神療法・薬物療法、作業療法、認知行動療法は通常通り行うこととし、研究参加期間中の投与薬剤については主治医の判断で、調整するものとする。 治療の効果は、介入前後での、アルコール・薬物に対する渇望感の変化を指標とする。アルコール・薬物に対する渇望感の変化は、OCDS (Obsessive Compulsive Drinking Scale) 、ACQ-SF-R (Alcohol Craving Questionnaire Short Form Revised)スコアで評価する。音響療法の開始前に1 週間のベースライン評価期間を設け、介入開始前(ベースライン)、介入2 週間後、介入4 週間後の時点での、スコアの変化によって、治療の有効性を評価する。
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次年度使用額が生じた理由 |
音響再生装置の購入を予定していたが、より高性能な高周波再生スピーカーが平成30年度より購入可能となる見込みが生じた。このため、予備的検討は既存の音響装置で行い、平成30年度以降に、より高性能な高周波再生スピーカーの購入費用に充てることとした。 また国際会議への参加を予定していたが、予備実験データを解析したところ、興味深い知見があり、より解析を進める必要があると判断されたため、国際会議への参加を平成30年度以降とし、その費用に充てることとした。
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