研究課題/領域番号 |
17K19947
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研究機関 | 国立研究開発法人国立精神・神経医療研究センター |
研究代表者 |
本田 学 国立研究開発法人国立精神・神経医療研究センター, 神経研究所 疾病研究第七部, 部長 (40321608)
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研究期間 (年度) |
2017-06-30 – 2019-03-31
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キーワード | 脳神経疾患 / トランスレーショナルリサーチ / 神経科学 / 脳・神経 / 情報環境 |
研究実績の概要 |
動物の生育環境を豊かにすること(環境エンリッチメント)は、脳機能の発達の促進や疾病の予防など、動物の生存にポジティブな効果をもたらすことが報告されている。しかし従来の実験動物を用いた環境エンリッチメント研究では、飼育スペース、個体間コミュニケーション、玩具の存在など複合的な要因が作用するため、その背景にある生物学的機序を同定することが困難である。本研究では、齧歯類モデル動物を用いて、複雑に変化する超高周波振動を豊富に含む音情報を印加した情報環境エンリッチメントが健康に及ぼす効果を、行動試験と脳内神経伝達物質の計測によって明らかにし、情報環境エンリッチメントの医学応用の基盤となる作用機序の生物学的解明を目的とする。 平成29年度は、行動試験バッテリーと日常行動モニタシステムからなる行動評価系を構築した。また健常マウスにおいて、さまざまな音情報を呈示した環境下で行動試験バッテリーを実施し、音情報の違いが各種バッテリーの結果に及ぼす影響について評価した。 また、音環境のエンリッチメントがマウスの平均寿命を最大17%延長することを発見し論文投稿した(平成30年5月に受理)。その報告の中で、音環境エンリッチメントによる寿命延長効果は社会的優劣関係がより顕著なオスのマウスで主に観察されること、同じケージ内で飼育したマウスの各個体の寿命を検討してみると最長寿命は音環境の影響を受けないのに対して、最短寿命は有意に延長し、ばらつきは有意に小さくなることを明らかにし、音響環境エンリッチメントがマウスの社会関係に基づくストレスレベルに影響を及ぼしている可能性を示唆した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
マウスを用いた行動評価については予定通り順調に進行している。また、音響環境エンリッチメントがマウスの自然寿命を有意に延長することを発見し、論文投稿した(平成30年5月に受理)。一方、ラットをもちいたin vivo microdialysisを用いた検討は、動物実験棟の移転などの予定が入ったため平成30年度に実施する。
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今後の研究の推進方策 |
これまでに確立した行動評価系を用いて、さまざまな音環境のパラメータの違いがマウスの行動に及ぼす影響を明らかにする。同時にうつ病などの疾患モデルマウスを用いて、健常マウスに及ぼす音環境の影響が、疾患マウスでどのように変容するかについて検討する。さらに、ラットを用いたin vivo microdialysisにより、音環境の違いが脳内神経伝達物質、特に気分障害や依存症の渇望感と関連の深いモノアミン神経系に及ぼす影響を検討する。
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次年度使用額が生じた理由 |
研究成果を投稿・発表するための費用が会計の決裁の都合で平成30年度となったため。ならびにラットを用いた研究を平成30年度に実施することにしたため。いずれも平成30年度中に使用予定。
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